第4話 ライト・オン・ミー
資料によると、この声の主はリナーシャ・ウィンフィールドと言うらしい。
零細町工場、フィールド重工の先代社長が愛娘にして、たった一人の跡取り……つまりは現社長である。
資料には軍情報部により彼女の来歴から極めてプライベートな個人情報に至るまでが、委細びっしりとまとめ上げられている。
曰く、現社長は事業を継続するつもりがなく、会社の資産にしても売却のため整理途中であったという。
今回グーテンベルクらが派遣されたのは、その資産の一部を接収するためである。
社長のリナーシャ氏には「危険な物品があるので差し押さえる」とでも言えば都合が付くだろう。
簡単な任務と考えるのも無理はない。
しかし今、目の前にある事態はそれ故の誤算である。
まさか、成り行きで親から町工場を継いだだけの女社長が、接収対象を独力で組み上げていようとは。
しかも巨躯を意のままに御するパイロットとして、彼女と接触することになろうとは。
全く想定外の連続だ、独り言ちそうになるのを抑えたグーテンベルクは、今一度ロボットへと視線を向けた。
……なるほど、改めて見ると確かに格好良い。
「まァ、カッコいいかって言われりゃ……その飾りっけの無さは最高にクールだと言っておこう」
機械的な駆動部は剥き出しで、被装甲面積は最低限。
分類上、"フィールドブレイズ"は確かに人型のロボットではあるのだろう。
しかし全体としての雰囲気は建設重機のそれを逸しておらず、おおよそヒロイックなロボットとは形容しがたいシルエットをしている。
しかして、その無骨さと機能美故に所謂、男心をくすぐる美しさも持ち合わせていた。
「おっ?おっ?わかるかい?あんた、なかなか見る目があるよ!」
リナーシャも、女だてらにそれが何たるかを理解していた。
というか、むしろ彼女は積極的に追い求めるタイプであった。
そうでなければ、独力でこんなロマンの塊を完成させられはしなかっただろう。
「ハッ、それはどうも。……で、俺としてはそのクールなマシンを是非とも譲って欲しいんだが……」
この5時間、再三に渡って要求し続けてはいる内容を敢えて繰り返した。
流石に、ここまで来て良い返事を期待するというのも楽観が過ぎるが、念のためである。
「はァ?……ったく、あんたも物分りが悪いな。答えは、Noだ」
そりゃ、ごもっとも。
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