第23話 単純明快な考え
午前の休み時間。
俺は屋上近くの階段前にて、壁に凭れて両腕を組む三崎と向かい合っていた。
「今朝、警察が家に来た」
「……そう」
受け流すような相づちをする三崎。
朝、家を訪ねてきたのは、白瀬でも三崎でもなく、地元にある警察署の刑事だった。
「で、成瀬は言ったわけ? あたしのこととか」
「いや」
俺はかぶりを振るなり、階段に腰を降ろした。
「言わなかったんだ」
「何だろうな、ここで三崎を警察に突き出したらさ、奈帆はまた、ぼっちになるかもしれないって思ってさ」
「それ、今思いついた理由よね?」
「いや、本当だ」
俺は言いつつ、天井を見上げる。
「警察はさ、近所にあった防犯カメラとか使って、三崎の姿は捉えたらしいんだけどさ、パーカー姿でフードを深く被っていたから、特定できるまでには至ってないって話してたな」
「そう、なの」
「ついでに言えば、跡を追おうにも、途中で同じような格好の人物がなかなか見つからないんだと」
「それはそうよね」
「逃げる途中で男装でもしたのか?」
「バカ」
三崎は言うなり、壁から離れ、俺の横に座り込んだ。
「別に、制服の上にパーカーを着て、ジャージの下を履いていただけだから。後は人気のない近くの雑木林とか行って着替えて、そこに隠した学校の鞄にそれらをしまって、後は普通の女子高生として、帰宅しただけだから」
「てっきり、勢いで襲ってきたかと思ったけどさ、そこらへん、ちゃんと考えてたんだな」
「当たり前でしょ? ついでに言うけど、近場にある防犯カメラの位置とかもある程度は頭に入れていたから。変なところで見つかって捕まるのもバカみたいだから。まあ、どこかの防犯カメラに映ったのはちょっとしたミスだけど」
三崎は話し終えると、俺の方へ目をやる。
「あたしが警察に捕まった後に、志穂と成瀬が付き合うようになったら、それこそ、バカみたいなものだから」
「それは、そうかもな」
「それはそうと、成瀬」
「何だ?」
「成瀬はあたしのことを警察に言わないのは何で?」
「何でって、まあ、それはさ、万が一、警察に漏らした後とかに、殺されたりでもしたらさ」
「けど、そういうのって、警察に保護してもらうとか、誰かに守ってもらうとか、色々とやろうとすれば、あたしからの脅威は守れるわよね?」
「それはまあさ……。けどさ、万が一ということも考えるとさ」
「あたしのことを匿って、殺されないような行動をすれば安全って言いたいわけ?」
「まあ、それが、ぼっちとしての俺が平穏な日常を何事もなく過ごすための決断だな」
「そう」
三崎は呆れたような表情をするわけでもなく、ただ、相づちを打つだけだった。
正直、俺自身もなぜ、そもそも、今の場にて二人っきりでいられるかわからない。下手すれば、三崎が。
「あたしがここで隙をついて、成瀬を刺し殺しても、あの世で恨まないでよね」
「いや、三崎はそういうことはしないだろうなと思ってるけどな」
「それは随分と、あたしを信頼しきってるわね」
「ああ。ただ、俺が白瀬と仲良くなりそうな動きがあれば、三崎はすかさず、俺を殺そうとするだろうな。まあ、何回かそういうことはあったけどさ」
「成瀬の考えてることはわからないわね」
「そう言う三崎もだけどな」
「あたしの考えは単純明快だから。成瀬が志穂と付き合うようなことになったら、成瀬を殺す。逆に、志穂が死ぬようなことがあったら、成瀬を殺す。それだけよ」
「相変わらず、きっかけさえあれば、俺を殺すことしか考えてないんだな」
「当たり前でしょ?」
三崎は口にするなり、立ち上がった。
「でも、成瀬が平穏な日常を過ごすために、あたしのことを警察に黙っててくれるのは感謝するわね」
「じゃあ、俺のことを何があっても殺さないでくれ」
「却下」
「だよな」
俺は肩を落とすと、三崎と目を合わせる。
「まあ、本当はさ、ぼっちな日常を過ごすことに退屈していたからかもな」
「そうなの?」
「わからん。第一、退屈しのぎなら、白瀬だけでも充分なはずだしな」
「あのね、成瀬。志穂のことを暇つぶしの物扱いに言わないでくれる?」
「悪い。今のは言い方がまずかった」
「言い方だけで、本心はそう思ってたわけ?」
「いや、その、悪かった。だから、殺さないでくれ」
俺が頭を下げると、三崎はため息を漏らした。一瞬、どこからか、キラリと光るような何かが視界に映った気がしたが、勘違いだろう。多分。
「で、志穂が小学校の時、何があったのかとか、わかったわけ?」
「悪い。それはわからなかった」
「そう。何となく、そうとは思ったけど」
「その反応はさ、はじめから俺に何も期待してなかったってことか?」
「何となくね」
三崎の言葉に、俺は警察に通り魔の犯人であることを教えようかと思ってしまう。
「それで、成瀬はわからなかったから、これで終わり、というわけじゃないわよね?」
「まあな」
俺は返事をするなり、持っていたスマホを取り出す。
LINEのアプリを開いた俺は、白瀬のアカウントを見るなり、意を決し、動くことにした。
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