第14話 尋問

 その日の夜。

 俺は家の近くにある公園のベンチに座っていた。

 隣にはパーカー姿の三崎がいる。呼び出してきた張本人だ。

「で、放課後に妹さんはいいとして、志穂と一緒にいた理由は何?」

「まあ、そのさ、色々とあってさ」

「そういう言い訳はいいから」

 三崎は振り向くなり、ナイフを俺の腹近くまで突きつけてくる。少しでも動けば、刺されてしまうくらいに。

「とりあえず、落ち着け」

「あたしは落ち着いてるから」

「いや、ナイフを持ってる時点でダメだろ?」

「うるさいわね。その口、今から静かにさせるわよ?」

 三崎は強い語気で俺に詰め寄ってくる。変に刺激をすれば、俺の人生終了かもしれない。

「わかったけどさ、聞いてすぐに刺すのはやめてくれ。とりあえず、それだけは守ってくれ」

「わかったわよ」

 三崎は口にすると、ナイフを遠ざけた。

「そもそもなんだけど」

「何だ?」

「成瀬はどうして、こうも簡単にノコノコとあたしの呼び出しに応じるわけ? しかも見た限り、何かあたしを嵌めようとしたり、警察に通報とかしようとしないし」

「それがどうした?」

「あんたはそれでいいわけ?」

 目を合わせてきた三崎は真剣そうな表情をしていた。

「こんな危ない人物と単独で話をするとか、正気の沙汰じゃないと思うんだけど?」

「自らを、『こんな危ない人物』っていうのは、どこか滑稽だよな」

「うるわいわね」

 三崎は文句をぶつけるも、再びナイフを突きつけようとはしなかった。

「まあ、だいたい、志穂に対して、首吊りのパフォーマンスをすること自体、正気の沙汰じゃないっていうか、成瀬の妙なこだわりみたいなものは、あたしから見ても、ちょっとした恐怖を感じるほどよね」

「恐怖?」

「下手すれば、成瀬はあたしを殺そうとするかもしれないってこと」

 三崎の言葉に、俺は乾いた笑いをこぼす。

「何がおかしいわけ?」

「いや、今ナイフを手に俺と話す三崎がさ、殺されるかもしれないっていう恐怖心を抱いてるってところがちょっとおかしく感じてきた」

「あんたね……」

 三崎は口にするも、それ以上は突っ込もうとしなかった。

「で、今日志穂と一緒にいた理由は何?」

「まあ、そのさ、妹を安心させようと思ってさ、白瀬を俺の彼女役として会わせただけだ」

「はっ?」

 気づけば、三崎は俺の腹近くにナイフの刃先を当てていた。

「意味がわからないんだけど」

「そう言うと思ったけどな」

「だいたい、そんなんで、妹さんを安心させるっていう意味がわからないわね」

「いや、そのさ、妹は俺がぼっちであることを気にしてたみたいでさ」

「なら、適当に友達を作って、妹さんに紹介をすれば済むだけの話じゃない? わざわざ、志穂にそういう演技をさせるなんて、あんた、何考えてんの?」

 語気を強める三崎は俺の方を睨みつけていた。

 対して俺は、「まあ、変だったかもしれないな」と反省の意を示してみた。

「ただ、友達を作ればいいっていうのもさ、俺にはそういうことは」

「できないってわけ?」

「まあな。というより、作り方も知らないしさ、後、そういうことをすること自体、抵抗があるしな」

「それで、志穂に協力を求めたってわけね?」

「まあな」

「そこで付き合うことになったって言ったら、即殺すわね」

「だと思ったけどな」

「で、それで、妹さんは安心したわけ?」

「わからないな」

「わからない?」

「ああ。さっき家で話してもさ、『いい人そうだと思います』って言うだけで、後は何もさ」

「つまりは、成瀬の妹さんは見た感じ、何も変わってなさそうと言いたいわけね」

「そうだな」

 俺が答えると、三崎はナイフを折り畳んでしまい、両腕を組んだ。

「妹さん、志穂と本当は付き合ってないこと、気づいてるんじゃない?」

「そう感じるか?」

「少なくとも、成瀬の話だけを聞いてる限りはね」

 三崎は声をこぼすと、立ち上がり、俺と正面を合わせる。

「あたしは別に、成瀬の妹さんの味方をするわけじゃないけど」

「けど?」

「成瀬はもう少し、妹さんのことを考えてあげたら?」

「それ、似たようなことを白瀬からも言われたな」

「そうなんだ。でもまあ、あたしがこの件で言えることはこれくらいしかないわね」

「もう、いいのか?」

「何だか、成瀬の妹さんのことを考えたら、もう、いいかなって」

「何が?」

「今ここで、成瀬を殺すことよ」

 立ち去ろうとした三崎は振り返るなり、ナイフをベンチに座る俺の方へ突きつけてくる。

 その後、三崎はフードを深く被り、ナイフをしまい、背を向けたまま、場からいなくなった。

 ひとり公園に取り残された俺は、ベンチの背もたれに寄りかかった。

「白瀬といい、三崎といい、どっちも奈帆のことを言ってくるなんてな……」

 俺は声をこぼしつつ、地面をじっと見た。

 さて、帰ったら、奈帆とどういう顔で合わせればいいのだろうかと考えながら。


>第14話で応援コメントをいただいた方へ

申し訳ありません、誤って削除してしまいましたので、いただいたコメントについては、以下近況ノートに記載していますので、よければ、ご確認いただければと思います。

https://kakuyomu.jp/users/aomi_ginbuchi/news/1177354054918190270

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