第13話 思い出したくない黒歴史
奈帆が先に帰ると、白瀬は俺に詰め寄ってきた。
「何だか他人行儀な感じだね、成瀬くんの妹さん」
「やっぱ、そう思うか?」
「そう思うよ。ましてや、成瀬くんがぼっちにこだわる理由を妹さんに聞かれた時に、まるで、その、突き放したような答え方したら」
「そう思うのか?」
「成瀬くんは、あまり話したくないのかなって」
「何がだ?」
「中一の時にあったこと」
「中一?」
「ほら、成瀬くん、一度、万引きの疑いをかけられたことあったよね?」
白瀬の問いかけに、俺はその時のことを否応なく思い出してしまう。
「何で知ってるんだ?」
「だって、その時わたし、クラスメイトだったからね」
当然のように答える白瀬。
「それに、成瀬くんの疑いを晴らしたのはわたしなんだよ?」
「白瀬が?」
「そうだよ。だって、あの後不思議に思わなかった? 一度は万引きの疑いをかけられたのに、その後、急にほら、成瀬くんを嵌めた男子が犯人になって」
「あれは、店の防犯カメラでマンガを奪った瞬間があって、それが俺じゃなくて、そいつだったっていう話だろ?」
「そうそう。でもね、あれ、防犯カメラを確認せずに、はじめは、成瀬くんの犯人ありきで進めようとしたんだよ」
「誰が?」
「学校側がね」
「マジか?」
「本当だよ」
白瀬はうなずくと、俺と同じアイスコーヒーをストローで飲む。
「だから、下手すれば、成瀬くん。中一で退学になってたかもしれないんだよ。今の学校を」
白瀬は指を差すと、可愛げに首を傾げてくる。
俺が今通う高校は万引きの疑いをかけられそうになりながらも卒業をした中学の付属校だ。私立の中高一貫校で、高校からは外部も一部入ってくるが、学年はほとんど同じ顔触れなわけで。
「まさかだけどさ」
「何? 成瀬くん」
「白瀬が防犯カメラを確認するように訴えたのか? 学校にさ」
「まあ、そんなところかな」
白瀬はえへへと笑みを浮かべ、はにかんだ表情を浮かべる。
一方で俺は肩の力が抜けそうになり、乾いた笑いをこぼしてしまう。
「そうか。俺は知らぬ間に白瀬に助けられたってわけか……」
「成瀬くんは万引きをするような人じゃないって思ったからね。むしろ、万引きを言ってきた男子の方が怪しいって思ったくらいだもん」
「それはまあ、感謝するしかないよな」
「だったら、本当に付き合おうよ、成瀬くん」
「いや、それはぼっちを貫きたいからな」
「断るんだ。わたしの告白を」
「いや、断っているわけじゃなくてさ、保留だ、保留」
「そんなにわたしが死なれるのが怖いんだね、成瀬くんは」
白瀬は声をこぼすと、綻ばせた顔を向けてくる。どうも、俺は先ほどからからかわれ続けられているらしい。
ちなみにだが、俺を万引き犯に仕立て上げようとした男子は退学処分になった。
「まあ、逆にわたしがしつこく迫ったら、成瀬くんも何をしでかすかわからないもんね」
白瀬は言うなり、席から立ち上がる。アイスコーヒーのコップは既に空だった。
「わたしが言うことじゃないと思うけど、妹さんとはもっと仲良くした方がいいと思うよ」
「余計なお世話だ」
「この後、成瀬くんは?」
「別に、普通に寄り道せずに帰宅だな。一昨日に通り魔に襲われてるしな」
「そうだったね。犯人もまだわからないみたいだもんね」
「まあな」
俺がうなずくと、白瀬は訝しな視線を送ってくる。
「そのことも何か隠してるのかな? 成瀬くん」
「だとしたら、何なんだ?」
「ううん。わたしとしては、色々正直に話してくれないかなって思ったりしてるんだよ」
「正直にか。俺にとっては、それを赤の他人にするっていうのは無理な話だな」
「中一の万引きの時に、友達になりそうだった男子から裏切られたから?」
「それもあるけどな、色々と面倒なことには関わりたくないってことだ」
「そうなんだ。まあ、色々あるよね。わたしだって、こんなに成瀬くんのことを好きになるなんて、思わなかったもん」
「それは俺にとって、迷惑な話だよな」
「だったら、きっぱりと断っていいんだよ? 『もう、俺に付きまとわないでくれ』とか」
「いや、それを言ったら、俺はゲームオーバーだ」
「ゲームオーバー?」
「ああ。そうなったら、白瀬も死ぬし、俺も死ぬ」
真面目に答える俺に対して、白瀬は首を傾げていた。
「わからないけど、そういうことを考えるのはネガティブでよくないと思うよ」
「かもな」
「そしたら、わたしと付き合って、ポジティブになろうよ」
「白瀬は隙あれば、俺と付き合おうとするんだな」
「当たり前だよ」
俺は白瀬の反応を見つつ、残っているアイスコーヒーを口に入れる。
一度断るとかすれば、白瀬は店を後にして、道へ飛び出すなり、車に跳ねられるだろう。
そういう面倒事にだけはなりたくない。
俺は席を立ちつつ、白瀬と俺の空になったコップを持つ。
平穏無事な日常を過ごすためには、色々と大変なのかもしれない。
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