第12話 ぼっちのこだわり

 放課後。

 俺は家の最寄り駅近くにあるチェーン店のカフェにいた。

『また、志穂と一緒にいるとかどういうわけ?』

『殺すから』

 スマホのLINEからは、三崎の物騒なメッセージが送られてくる。食堂のことか、はたまた。

「成瀬くん?」

 反対側に座る白瀬が首を傾げつつ、尋ねてくる。

「LINE?」

「まあ、そのさ、妹と連絡しててさ」

「そうだよね。成瀬くんは友達がいないから、そういうやり取りをする相手はいないはずだもんね」

 白瀬は自分で納得をさせるかのように声をこぼす。

 俺にとってはバカにされてるように感じてしまうが、じっとしてよう。

 俺は三崎とのLINEを閉じ、今度は奈帆とのLINEを確かめる。

『五分ほど遅くなります』

『申し訳ありません』

 奈帆の連絡は相変わらずというか、畏まっているところがある。距離感があるのはやはり、否めない。

「成瀬くんの妹さん、普段は大人しい感じの子なのかな?」

「どうして、そう思うんだ?」

「何となくというより、昨日会って、そんな感じの子だなって」

「そっか。白瀬でもそう思うのか」

「ということは正解なんだね」

「まあな」

 俺は適当に返事をすると、頼んでいたアイスコーヒーをストローで飲む。

「もしかして、上手くいってないとか?」

「いや、別に仲が悪いとか、お互いにまったく話さないっていうことはないな。たださ、ある程度の距離感というかさ、そういうのはあるかもな」

「そうなんだね」

「まあ、だからさ、これからすることはその問題に対する一種の実験みたいなものでさ」

「わたしとしては、実験じゃなくて、リアルなことでもいいんだよ」

「いや、それは俺が困るからな」

「強情だね、成瀬くんは」

「そういう白瀬もだろ?」

「ということはお互い様だね。似た者同士なら、付き合っても上手くいくと思うんだけどな」

 白瀬は残念そうに言うも、俺は決して折れたりしない。今のような態度はわざとだろうと俺は警戒をしているからだ。

 しばらくして。

「お待たせしました」

 セーラー服姿の奈帆が、オレンジジュース片手に現れた。

 俺は空いている隣の椅子を引くと、奈帆はお辞儀をしつつ、腰を降ろした。

「遅れてすみません。その、掃除当番がちょっと遅くなったもので」

「律儀だね、成瀬くんの妹さんは」

「いえ、奈帆は別にそこまで律儀ではないです」

 白瀬の反応に、畏まったような様子をする奈帆。

 さて、始めるとするか。

 俺が目配せすると、白瀬はこくりとうなずいた。

「なあ、奈帆。今日呼んだのはさ」

「お兄さんに彼女さんができたということですか?」

 俺が言おうとしたことを先回りして、奈帆は問いかけてきた。

 俺が白瀬に頼んだこと。

 それは、俺と白瀬が付き合っているかのように、奈帆の前で演じてほしいというものだった。

「察しがいいね」

「そうでしょうか?」

「だって、お兄さん」

 白瀬がからかってくるも、俺は受け流し、奈帆と目を合わせる。

「奈帆はさ、俺のこと、心配してくれていたんだろ?」

「それは、その……」

 奈帆は途端に口ごもり、俺から目を逸らす。頬はうっすらと赤く染まっていた。

「お兄さんがずっとぼっちなのは知っていました。ですから、その、お姉さんみたいな人が昨日突然現れて、奈帆は心底安心した気持ちはあります」

「まるで、お姉さんみたいだね」

「いえ、奈帆はそんな」

「おい、白瀬。奈帆をからかうな」

「からかってないよ。わたしはただ、妹さんのお兄さんに対する気遣いに感心してるだけだよ」

「あのな」

 俺は言いつつも、白瀬が奈帆のことをバカにしてないことだけは何となくわかった。

 というより、奈帆は俺のぼっちを気にかけていたのかと。

「なあ、奈帆」

「はい」

「俺は別に、仕方なくぼっちを続けてるわけじゃないからな」

「どういうことですか?」

「まあ、そのさ、好き好んで、自らぼっちを貫いてるっていうかさ」

「そうだよ、妹さん。それは、幼稚園からずっとクラスが一緒だったわたしが保証するよ。お兄さんは教室でいつもひとりで過ごしているんだよ。誰かしらが声をかけてあげたりするけど、それをお兄さんはすべて拒んで、ね?」

「俺のこと、よく見てたんだな」

「当たり前だよ。そうじゃなかったら、こうして付き合うようなことはなかったもの」

 口にする白瀬は嬉しそうだ。演技ではなく、本気で喋っているように感じる。

「お兄さんはどうして、そこまでぼっちにこだわるのですか?」

 目を合わせてきた奈帆は、不思議そうな表情を向けてきた。

 対して俺は。

「まあ、一言で答えるなら、面倒なことに関わりたくないってところだな」

 といった感じで曖昧な返事になった。

 奈帆は何かを察したのだろう、さらに突っ込もうとせず。

「そうですか。わかりました」

 奈帆は言うなり、オレンジジュースをゆっくりと飲む。

 一方で、白瀬は気にかけるような視線を俺に送ってくる。

「何か言いたいのか?」

「今は特に、何もないかな」

 とぼけるように声をこぼす白瀬は、明らかに何かを言いたげな感じがした。

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