第11話 偶然を装ったあからさまなウソ

 校内にある食堂は昼休みとあって、混み合っていた。満席というほどではないが、どのテーブルにもひとつかふたつくらいしか空きがない。

 で、俺は食堂でも数少ない二人掛けのテーブルに座っていた。食べているのは日替わりのコーンラーメン。箸だけではコーンをすくえず、レンゲが必要になるものだ。

「たまには学食もいいかもな」

 俺は口にしつつ、麺を啜る。教室では長い時間、同じ場所で白瀬といることに耐えられないからだ。昨日、屋上近くの階段で弁当を食べていた理由と同じく。

「しばらくは、色々とローテーションを考えて昼休みの過ごし方を考えるか」

「大変だね、成瀬くん」

「まあな。そうなったのも、白瀬が告ったりしなければさって、おい」

 気づけば、テーブルを挟んで空いていたはずの席に、白瀬がごく自然に座っていた。手前にはかけそばが入った器がある。日替わりでなく、定番メニューを選んできたらしい。

「昨日、成瀬くんがああいうところでお昼を取っていたから、今日はどうするのかなって思っていたんだよ」

「白瀬は、友達と弁当を食べるんじゃないのか?」

「今日はちょっとね、たまたま忘れちゃって、たまたま食堂に足を運んでみただけなんだよ」

 白瀬の言葉には、あからさまなウソが混じっているようにしか感じられない。特に「たまたま」という表現あたりとかが。

 で、周りは、何人かの生徒が興味深そうに視線を移してくる。おそらく、同学年の生徒らだろう。まあ、白瀬はどうも、クラスだけでなくて、学年でも男女から人気があるようだ。と、三崎から昨日さらりと教えてもらっている。

「俺はさ、面倒なことに関わるのは嫌いなんだよな」

「だったら、わたしと付き合えばいいんだよ」

「あのな」

「そしたら、成瀬くんは堂々と、わたしの彼氏だって名乗れるんだよ?」

「いや、それに対する妬みとか、恨みとかあるだろ?」

「そんなの、気にしなければいいんだよ。気にするなら、わたしがそういうことを言う人たちに文句をぶつけてあげるよ」

「そうすると、余計こじれそうな気がするんだが」

「そうかな」

 白瀬は納得をできなさそうな顔をしつつ、そばを啜り始めた。

「そういえば、妹さんは元気かな?」

「白瀬には関係ないだろ?」

「関係あるよ。いずれは長いお付き合いになるかもしれないんだよ」

「あのな……」

「でも、今は休戦というか、保留かな。昨日、成瀬くんがあんなことするなんて思わなかったから」

 白瀬は言うと、箸を止め、器の中へぼんやりそうに顔を動かしていた。

「わたしは諦めないよ。成瀬くんのこと」

「一途だな」

「他人事みたいに言うけど、当事者は成瀬くんなんだよ?」

「わかってる」

 俺は答えると、持ってきていたコップのお冷を何口か飲む。

 周りの視線はもはや、どうでもいいといった感じで気にしないようにしていた。いや、中に三崎がいたら、後が面倒だが。

 俺はふと、朝、奈帆と登校をした時のことを思い出した。

「なあ、白瀬」

「何かな?」

「無理も承知で、ひとつお願いをしてもいいか?」

「わたしと付き合ってくれるなら、いいよ」

「まあ、お願いっていうのは、それに近いかもしれないな」

「えっ?」

 俺の言葉に、白瀬は予想だにしなかったのか、間の抜けたような声をこぼした。

 まあ、近いというだけで、告白を受け入れるという意味ではない。

 あくまで、近いというだけだ。

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