第22話 来訪者

 あれから1日がたった。

 立ち上がって、リビングに飾ってあるカレンダーの日付を見て、もう夏休みも終わりが近づいていることに気が付いた。

(椋は、学校へ戻れるのだろうか――)

 その時だった。

 ピンポーン、と呼び鈴が鳴った。

 最初は無視したが、ピンポン、ピンポンと繰り返し鳴る。


「しつこい!」


 俺はやむをえず、玄関を開けた。


「なんだ?」


 チェーンを付けたまま、ドアを開き、迷惑だと明らかに伝わるように、一言発した。


「!?」


 そこに立っていたのは、黒服を着た女だった。

 いかにもな営業の格好やスマイルもない。

 無表情で、声は無機質。身長は俺よりもやや上。女にしてはかなり良い体格だ。


「あなたは、修一君ですね」


 俺の名前をその女は呼んだ。声は女らしい透き通った声で、俺よりは年上だろうがそれでも若いと思われる。


「あ、うちそういうの興味ないんで。それじゃ」


 妙に不審な雰囲気に、ドア閉じようと引いた。


「ちょ、わたしは、押し売りじゃない――」


「消火器は、間に合ってますよ、消防署の方から来たんですよね」


「そんなところから来てない、わたしは……」


「あ、マンション投資も、親からきつく言われてるんで」


「だから、わたしは押し売りじゃない!」


 だが結構強い……!

 女だてらに、力一杯閉じようとしても押し返されそうだ。

 く、秋奈の言っているとおり、やっぱり運動部に入って鍛えときゃよかったな、と後悔しながら、ドアを引く。


「修一君。それに、椋君もここにいらっしゃることは知ってるわ。今、苦しんでいるんでしょう?」


 相手の女もドアをひっぱりつつも、冷静にしゃべる。

 サングラスをかけていて、表情はわからない。だが、化粧気も無いのに端正に感じるのは、元が美人だからだろう。

 ヒールではなく、動きやすい靴、それに何より隙のない雰囲気。

 こいつ……

 ただのビジネスマンや、一市民じゃない。


「今の椋君、彼の、いや彼女の状況の助けになると思うのだけれど――」


「椋の……!?」


 俺は力を抜いた。すると相手も引っ張り合いが終わったことを悟り、ドアから手を離した。


「ふう……ここが嫌なら、とりあえず近くで話しませんか?」


「あ、ああ……」

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