第16話 融和
その日は椋を俺の家に泊めた。
今の俺にできることといえばこれぐらいだ。椋の居場所をつくることぐらい。
夕食を食べた。
電子レンジであっためられる冷凍料理だが……。カップラーメン、缶詰、レトルトが多く、もっときちんと食事を取れと椋にしかられた。
シャワーも浴びた。
そこで椋がバスルームから出てきたときに、気付いた。
椋は着の身着のままで帰って来たから服が無い。少女がタオル一枚のままリビングに突っ立っているので、慌てて服を探した。
だが俺の服しかないので女物の服など当然ない。ランニングのシャツとハーフパンツで我慢してもらった。
明日、買いに行かないといけないと思った。
俺のベッドで寝させようかと思ったけど、ソファを貸して欲しいとだけ言った。寝る前にさっきできなかったゲームをやったり、漫画の話しとかテレビとか、他愛も無い話に花を咲かせた。
次の日の朝。
日曜の朝早くから秋菜が俺の住むマンションにやってきた。ちょうど椋が早朝の墓参りに行ったときだった。
手持ち無沙汰だった俺にタイミングよく訪ねてきた。
「ほ、本当に、本当に昨晩は何もなかったの?」
秋菜は血相を変えていた。やけにソワソワ落ち着きがなくー。
「何って何を?」
いきなり色々聞かれた。何故椋が俺の時にきたんだとか、何か椋にされたとか。
そして椋が俺の家に泊まったこと。それを何度も聞いてきた。
おかしい?誰にも話してないのにな。
「昨日あたし見たの、見間違いないじゃないよね」
ああ、そうだった。椋が女であることは知られている。
「おいおい、さっきから何心配してるんだ? 別になにもされなかったよ」
きっとみんな恐れているんだ。椋のような帰還者たちのことを。
獣が帰って来たようなそんな印象がもしかしたらあるのかもしれない。せめて秋菜だけでも安心させてやろう
「あのな、あいつ全然毛が生えてないんだ」
「わ……わ……」
生えているのは耳と尻尾だけであとは人間と同じ。
「秋菜とまったく同じだ。ツルツル」
俺や秋菜と変わらないまったく同じ人間なんだ。
「わあわあ!」
あれ?プルプル震えている。
「修一、馬鹿! 最低!」
「へぶっ!」
ストレートが俺の頬に命中。
15分後
ふう、やっと誤解がとけたぜ。
と顔を氷で冷やしつつ、恨めしげにソファ寝ころぶ。
「ほら……秋菜さん、本物でしょ?」
「あ、うん本当だ……あったかい」
尻尾は触っちゃ駄目だけど、耳ならいいよと椋が促したので、秋菜が椋の頭の耳をナデナデして感触を確かめていた。撫でられると耳がぴょこぴょこ動いて可愛らしい。
あーちくしょう、俺もやってみたいぜ。あんなのまだ俺はさせてもらってないぞ。
「凄い可愛いー、アクセサリーみたい」
「ありがとう、秋菜さん。ところで修一、何で鼻に詰め物してるの?」
「ああ、鼻血出しちまって、秋菜の奴が椋の体毛が薄いのを勘違い、イテ! つねんな!秋菜」
「そ、それより、椋さん」
「何?」
「もう他の人には帰ってきた報告したの?」
「ううん、まだだよ」
秋菜にストレートパンチ喰らったちょうどすぐ後に椋が帰って来た。だから、こうして椋に引き合わせている。
最初は物陰から恐る恐る出てきた秋菜だったが、椋に明るく挨拶されると、いつもの表情に戻った
正解だった。
ネコミミ少女といってもほとんど俺達と同じ。うん、椋のことを理解される人間が1人でも増えるのは良い事だ。
「そう……。みんな、昨日からずっと待ってたみたいよ」
「そっか、秋菜さんのお父さんはあの人だもんね。落ち着いたら行くつもりだよ」
逆を言うと今すぐはいかないという意思表示だ。
「……」
秋菜の父親は町長だ。何代も続いた名家で、篤志家で施設に沢山お金を寄付して、町中から慕われていた。
五年前の騒動のときも騒乱になりそうな町を纏め上げた。
でも椋の町長に対する思いは複雑なものがあるであろうことは推測される。
そしてその逆も……。
「教えて欲しいな、秋菜さん」
「え?」
「僕、体がこうなっちゃって、でも女の子のことって全然わかんないし、服とか下着とか選び方がわかんないんだ」
俺はもう慣れているが、あけらかんと自分の状況いってのける椋に秋菜は戸惑っている。
「な、何!」
椋の奴なんてことを。俺が今日一緒に行こうと思ったのに。
「馬鹿、椋。こいつなんてお子さまの下着ぐらいしか知らな……ぐはぁ!」
エルボーが右わき腹の急所に炸裂した。
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