第14話 金色の瞳

 過去の記憶がよぎった。


「どうして僕たちがこんな姿になったか聞きたい?」

「あ、ああ」


 ふふっと不敵に笑った。


「ボクら向こうの世界に行った」

「わかってる」

「向こうの世界は太陽でも月でも無いものが不思議な光が照らし続けている場所だった。ボクらの中には、小さな子もいた。だから、僕たちは、年が少しでも上の子は、その怖がる子たちを守るように周りを囲んだ。それでもずっと光を浴びた」


 椋が具体的に何をしてきたのか、初めて聞く。


「不思議な光りは禍々しくて、とても苦しくてやがて意識を失うまで浴びた。気がついたらこの体になったんだ。その後は光が神々しくて、心地よくて」


 肩紐を外す。そのまま引き上げて頭をくぐらせる。

 まさか……見た目は見た目だが、元は椋だから、こんな展開はありえないと思っていた。


「どう思う? 今のボクをみて……」


 ついに着ていたワンピースを脱いだ。


「ん? ああ……き、綺麗だよ」


 感想を求められても困った。

 椋だからと気にしてなかったが、異性を家に入れたんだ。

 俺にとって人生初めての体験。まして裸の感想など……。

 ただこれだけはいえた。キズ一つ無い。とても綺麗な体。


「ほ、本当に女の子なんだな。 今までみてきたなかでもかなり可愛いと思う」


 わかっていたこととはいえ実際見るとインパクトが強い。

 心臓の鼓動が高鳴る。頭で沈まれ静まれと言っているのに、男の本能がー。

 女の子の裸を目の前にして―ー。


「そう、ありがとう。でも……これでも同じ事言える?」

「え?」


 何故か少し俯いた椋。

 俺の背中がゾクっと凍った。

 顔の表情が見えない。雰囲気が変わった?


「これでも?」


 椋は顔を上げた。

 次の瞬間、二つの鈍い金色に光る楕円形の玉がー俺をギョロっと睨んだ。


「!!!」


 危うく声を出すところだった。

 やばい。殺気というか攻撃的な気配がビンビンに感じる。


「あの時、ボクは泣いているボクよりもずっと小さな子を抱きしめ続けた。……自分がどうしてここにいるのかもわからずに、異世界に連れて行かれて毎日泣いてた子だった」


 その言葉には微かに怒りが篭められていた。そう、猫の目だ。あの瞳孔が極端に縮んだ目。ネコ耳の生えた女の子だったさっきまでの雰囲気とは違う……。

 獣に捕捉されているような心地。

 ゆっくりと俺に近づいてきた。


「ふふ、こんなボクでもかわいい?」


 薄笑い気味につぶやいた。自分に語りかけるように。

 そうだ。椋は好きでこうなったわけじゃない。 俺たちは恨まれて当然。

 目の前に、さっきと同じ少女の裸があるというのに、すっかり体から熱い火照りが引いて、別の意味で心臓がドキドキする。

 これもまた生き物としての本能。危険を知らせている鼓動だ。


「修一、知ってる?ネコは肉食性なんだよ?」


 俺は既に捕らわれた獲物だ。猫に捕らわれた小動物。

 俺の耳元に近づいてささやいた。息が感じられるくらいの距離だった。よくみるとその口には牙のようにするどい歯が生えている。


「体温に近い肉が一番いいんだー」


 口がゆっくりと開く。噛み付く態勢。首に噛み付かれたら頚動脈に達するだろう。即死。そして次の瞬間。


「修一、どうして逃げないの?」


 噛み付かれる一瞬、覚悟を決めて目を閉じた。

 だが次に待っていたのは椋の言葉だった。


「どうして?」

「椋こそどうして噛み付かないんだ? お前の復讐なんだろ?」


 みんな恐れていた。椋達帰還した子供たちから復讐されることを。

 それだけのことを俺達この世界に残った人間はやった。

 連日伝えるニュースの緊張感はそうした恐怖の裏返し。


「いいの? 本当に食べちゃうよ? 今のボクは雌猫なんだから、人間なんてどうも思わないよ?」


 金色の目がじっと睨めつけている。


「いいんだ。本当はもっと早くこうするべきだったんだ」

「わからないよ、修一の考えてること。死ぬの怖くない?」

「怖いけど……お前もそうだったんだろ?」


 俺は椋にこうされることを望んでいたかもしれない―

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