第12話 告白
再び椋と二人きりになった。
「この花、母さんが好きだった花なんだ。せっかく見つけたんだから供えようと思ってね」
椋が花瓶に水を入れて買ってきた薔薇の花を挿した。両親が出張で不在。家族向けの広すぎる住居に中学生男子の1人の暮らし。
そういえば花を飾るなんて考えたことも無かったな。
「そっか……あの娘、秋菜ちゃんって、町長さんとこの子だっけ。可愛い子だよね」
「ああ、ビックリだろ? あのごっつい親爺から、あんな子供が生まれるなんて―ま性格は親爺に似てないこともないか」
秋菜の父。恰幅の良い、いかにも地元の名士といった感じの厳とした風体を思い出した。
秋菜がクラス委員長を務めているのも、その父親譲りともいえるだろう。
「修一も酷いこというなあ。いい町長さんだよ。町の人想いで、すっごい家族思いだしね」
「はは、そうなのかあ」
何故か椋が庇うので俺は苦笑して誤魔化すしかかった。
その想いが椋に向けられることはなかったのに何がそういわせるのだろう?
あの町長にはいろんな意味で世話になったから良く知っている。でも椋はそれ以上に良く知っている人物だ。
遙か異世界へ送られる子供を選ぶ町の最終決定権者。
椋が選ばれるように仕組んだ中心人物だ。
「でもあいつ結構ああ見えて、わがままで意固地なところがあるんだぜ。大事にされて育ったせいかな?」
椋を紹介しようと思って、一緒に上がっていくか?って声をかけたのに、逃げるように去っていきやがった。
秋菜がその椋の風体に驚いて逃げ去ったのではないか?と思った。
ま、その耳と尻尾を見れば無理はないと思うが、残念だ。いい機会だったのに。
改めて椋の姿をマジマジと見つめる。
もう既に慣れたが、こうしてみると、めちゃ可愛らしい。こんなに可愛いのに、秋菜も勿体無いなあ。
「何もあんなに慌てて帰らなくても……」
「きっと、秋菜さんには秋菜さんの気持ちがあるんだよ。ボクにはわかるよ」
「そうか?」
椋は随分大人だな。
「やっぱりわかってないなあ、修一は」
俺の考えていることを見透かしたのか知らないが、椋の方も俺の方を見てそういった。
つやのいい毛が生えた尻尾が一瞬大きくウネった。
「そういや、お前花ってどうやって買ったんだ?」
花瓶に挿された黄色い薔薇の花。テーブルの上で儚く佇んでいる。考えてみれば、金は渡してないんだけど、どうしたんだろう?
見た目着の身着のままで、荷物らしきものは何も持っていないが……。
「ん? お金ぐらい持ってるよ?」
椋はポケットをガサゴソして折りたたまれた皺の多い紙幣を取り出した。
それは何枚もの1万円札。
「お、お前どうしたんだ、凄い大金だぜ」
中学生が持ち歩く金額ではない。
「落ち着く先が決まるまでの当面の生活費、貰ってるんだ」
そういえば、さっき見たニュース……帰還した者達に補助や支援を惜しまないということを言っていた。
「そんなに貰ってるのか。確かに当面は大丈夫だな。じゃあ、椋はこれからどうするんだ?」
お金があるのはわかった。だが、椋はもとに戻る場所が無い。施設に入るか、後見人を見つけるかしないといけないが、どのみち1人―
ふと椋を見ると、俺をじっと見つめていた。
なんかこう、意を決したように―
「ねえ、修一、ボクもわがまま言っていいかな? 秋菜さんみたいに」
え? 何を言い出すんだ?
「ボク、ここにしばらくいたいんだ」
一緒ってどういうことだ?今も一緒にいるんだからそういう意味じゃなくて……。その……俺と一緒に暮らすってこと……。
「それは……構わないが……」
「やった。嬉しいな」
あれ? 何でそんなに近づいてきてるんだ? いつの間にか椋が俺の目の前にそっと寄って来ている。
息遣いが聞こえるぐらいに近く……。
おまけに着ているワンピースの肩紐に手をかけている。
「待て、ストップストップ。何するんだ。お前さっき自分の口で女になったっていっただろ」
だからそれはまずい。5年間の年月を経て、これでも男の子になっているのだ。
女性への性の欲求というのも、それなりにある。
今の椋は口には出していないが、かなりの魅力ある代物だ。
だが、そんな俺を知ってか知らずか椋はかまわず迫ってきた。
「?」
椋の様子が違う。
動揺する俺の耳元に、顔を寄せた椋がささやいた。
「修一にだけ教えてあげるーボクどうなったのか」
そこの言葉を聞いた時、何故か俺には5年前のあの日の光景が浮かんできた。
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