第9話 暗闇

 田舎のこの町に激震が走ったあの日。

 異世界からの異形のものの襲来で、連日連夜テレビは大騒ぎ。特に東京はパニック、戒厳令まで出された。大騒ぎだった。この片田舎にいる俺たちには、それでさえも遠いところでの話しに思っていた。

 だが……やがて遠い世界の話に聞いていた異世界にまつわるの話が、この町にも及んだ。政府等の決定で、これ以上の異世界からの浸透や侵入を防ぐために、異世界人たちの要請要求を呑んだ。

異世界人たちは、地球世界の子供達を欲している。

 ついては、10~20歳間の子供を差し出す。それにあたっては、各町から子供を選んで、送り込む。

―選ばれた子供は、異世界に送られる。何をしにいくのか、されるのは、まったくわからない―

 全国に割り当てられた、配分で、この田舎地区からも誰かがいかなければいけなくなった。

そしてみんないがみ合い、罵りあった

 いつ帰ってこれるか、わからないその使命。

 希望の申し出があれば、もちろん解決だったが、どこの家族・親子も嫌がった。もう二度と帰って来れないかもしれない。何かの実験、研究に使われ、動物のように扱われる。そんな噂が飛び交った。

 だから修一たちの町でも、毎日、毎日、老若男女、偉い人も子供も、大騒ぎをし、何度も会議が開かれた。

会議と言っても、とても話し合いとは言えない、殺伐とした、そしていつまで経っても結論の出ない集まりだった。

その時の光景は今でもはっきりと思い浮かぶ。

 町の人々が大勢詰めかけた、会議室。

 夜遅くまで煌々と照らされる電灯の下、いつまでも終わるともいえない会議ーー。


「うちの子を行かせるなんて、とんでもない!」

「そうだが、誰か決めないといけないんだ。一体誰が……」


『おい、あんたの所の息子、高校中退してぶらぶらしとったろ!ちょうどいい機会だ。いかせたらどうだ?』

『はあ、?何馬鹿言ってるのよ。うちの大事な一人息子なのよ。あんた町のお偉いさんでしょ?みんなのためにあんたのところの子供いかせなさいよ』

『ママ! あたし遠くに行きたくない。行きたくないよう、うわーん』

『大丈夫よ、絶対にいかせるもんですか』

 露骨な口論もあれば、腹の探りあいもあった。

『そうだ、くじ引きにすればいい』

『それは良い、それなら平等で文句も無いしかし……まだ誰か行っても良いという家族がいないとも限らん』

 静かな町が醜い言い争い、押し付け合い、怨嗟の声で埋まった。どこの家族も自分の子供達が大切。ただ時間だけが過ぎていった。

 やがて、人々は1人の少年の存在に気付き、目を向けだした。

 身寄りのない、椋という存在に。

 誰も庇う大人のいない椋は、好都合な存在だった。

 最初は誰とも無くいいだした。ヒソヒソと……。しだいにそれは大きくなり、町の有力者だの、議員とかそんな人間が椋の元を訪れるようになった。

 あまりも醜くて俺自身記憶の奥に封印したかった。


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