第4話 余波
「他には……?」
もちろん一番大きな変化は体がどうみても女である、ということだ。
だがまじまじと見つめる。
言わずとも俺がその一番大きな変化を認識していて、平静を装っていることを椋も理解している。
「まあ、他は昔と変わってないな」
「あーあ。修一、もっとビックリするかと思ったのになあ」
「これでもびっくりはしてるさ」
五年ぶりに帰ってきた幼馴染がネコミミ少女になっていた。
もちろん驚いてはいる。
だが再会の喜びが、それ以上に大きいのだ。
「まあ……椋は椋だ。色々聞かせてくれよ。何せあれから5年以上だろ? 興味はすっげえあるよ」
「ふふ、色んなことに無頓着なとこは、修一も全然、変わってないねえ」
椋の何気ない言葉が心に響いた。
(俺達は変わってないのか……)
それは椋のような人間を犠牲にして出来た安息だった。あの日々を俺はもちろんまだ忘れていない。そしてこの街の人々全員が忘れてはいない。
珍妙なことが起きているにも関わらず椋に起こった変化にそれでも慌てることなく冷静でいられたのは、それぐらいのことが椋に起きても当然、むしろそれぐらいで収まったことに安心したというのもある。
何せ――。
椋は五年ぶりに生きて遠い異世界からこの世界に戻ってきたのだから。
うだるような暑さの夏の通り道を二人でゆく。
俺と椋は自転車を引っ張りつつ共に歩いた。
時折蝉の声が聞こえる。八月も終わりになりつつあるが、まだまだ夏は終わってはいない。
田舎街のため移動手段のメインは自動車で、駅前であっても人通りはそれほど多くない。まして夏休み。
ときたまギョッと通行人のおじさんが椋に足を止めて目を見張るぐらいだ。
一瞬驚くが、俺が睨むとやや横目かつエロ目線の後に慌てて顔をそむける。
今の椋の見た目はかなりの美少女だし、注目はされやすいだろう。
ここに長居は無用だ。
といいつつも二人で並んでゆっくりとした移動だ。
「やっぱり目立つかなあ」
椋が頭巾のように被っている白いものをかぶり直してネコミミを隠す。
「いいや、そうでもないぜ。オレ気付かなかったし」
歩きながらふと駅前商店街にあるコンビニに並べられている夕刊の見出しをみると、帰還者達の記事が一面の見出しに踊っていた。
「緊急速報」
目立つ緊迫感溢れる見出しで飾られている。
朝にやたら流れていたパンダニュースはどこかへいっていた。
『政府、アースランドからの帰還者受け入れを発表」
『受け入れのための各種制度の整備を検討』とか『各市町村へ受け入れと協力を要請』という記事が踊っている。
今まで沈黙していたのに、一気に吹き出したように今度はてんやわんやの状態だ。
そのピリピリした空気から社会全体が恐れているかのようにも見える。
椋も、その記事を目にしている。が、特段反応を見せる様子も無い。
テレビ、新聞の緊張感とは裏腹に、実際に帰ってきた当人を目にすれば、なんてことはない。
ただ1人のあっけらかんとした少女だ。
「ボクらはあっちの世界に行って色んなことをしているうちに、この体に変化してしまったんだ」
椋はこともないように、語った。
色んなことがあったの短い一言にどれだけの意味が込められているのか知れない。
「それがその耳と尻尾かーー」
俺は今はそれ以上は聞かなかった。
すべてを話すには、あまりにも今は時間が足りない。
もっとじっくり様々なものをときほぐしていかなければいけない。
この街が――俺たちが椋に対してやったことを考えれば。それぐらいの手間と時間は訳もない。
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