【3】

 僕はそれからというもの、祠に色んな物を供えるようになった。

 おやつはもちろん、虫の死骸や、カタツムリの死骸や、大きめのカエルの死骸や、捕まえた蛇の死骸など、色んなものを祠に供えた。

 洗剤入りパンを食べさせて殺したカラスや、迷い込んできた子猫を石で叩き殺して供えたこともあった。

 どんなものを供えても、次の日にはきれいさっぱり無くなっていた。

 僕は段々と祠にお供え物をするのが楽しみになっていた。何を供えても次の日には無くなるのが、まるでマジシャンになったようで心地よかった。

 ある日、僕がカマキリを見つけて殺そうとしていると、不意に背後に気配を感じた。振り返ると、竜二君がニヤニヤ笑っていた。

「お前、何してんの?」

 竜二君は僕に歩み寄ると、カマキリを見つけた。

「お前、こんなのと遊んでるのかよ。キモッ」

 竜二君はゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。僕はその笑顔が大人のする汚い笑顔にそっくりで酷く気分が悪くなり、竜二君の顔面めがけて生きたカマキリを投げつけた。

「うああああっ」

 竜二君は間抜けな声を出して慌てふためいた。僕はその隙をついて、足元の手頃な大きさの石を拾い上げた。

「てめえっ、なにすんだっ」

 竜二君が喚いた。こめかみにはカマキリが引っ付いたままだった。僕はカマキリを潰したい衝動に駆られて、思いきり石をぶつけた。

「あば」

 竜二君が変な声を上げて地面に倒れこんだ。こめかみのカマキリは半分だけ潰れてもがいていた。竜二君の血に、カマキリのまだ生きている部分が溺れていた。

「あがごが」

 僕はカマキリのもう半分を石で潰した。変な声を上げていた竜二君は大人しくなった。

 僕はなぜか酷く冷静だった。辺りを見回したけど、裏庭は不気味なほどに静かだった。

 僕は祠の前に竜二君を置くと、血だらけの頭の上に潰れたカマキリをあしらって、家に戻った。服を着たままお風呂に入ると、竜二君の血とカマキリの中身を洗い流した。

 服を雑巾みたいに絞った後、扇風機の前でずっとテレビを見た。やがておばあちゃんが帰ってきて、晩御飯のカレーを作った。

「何かいいことあったの?」

 おばあちゃんが笑顔で聞いてきた。

「うん」

 僕はニッコリ笑ってカレーを頬張った。

 次の日、僕は裏庭に行った。やっぱり、竜二君とカマキリの死骸は無くなっていた。

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