26. 涼の秘密

 4月。

 夢葉は大学3年生になった。怜と翠が大学を卒業してしまい、いつものように大学構内のカフェテリアでツーリング計画を話すことができなくなった夢葉は、取り残されたようで少し寂しい思いを抱いていた。


 それよりも、二人は社会人になって、何かと忙しいらしく、三人でツーリングに行く機会はめっきり減っていたことが、彼女を一層寂しい思いにかき立てていた。


 そんな4月中旬のある日。


 いつものように帰宅すると、母・絵美の友人、松島京子がリビングにいた。


「あ、京子おばさん。こんにちは」


 挨拶を交わしながらも、彼女の視線は、京子の隣に座っていた、見知らぬ女の子に注がれていた。


 ふんわりとした雰囲気にも見えるが、少し怯えた小動物のような、所在なさげな視線を宙空に浮かべ、ちらちらと夢葉の方を遠慮がちに見ている女の子。


 年の頃は、十代後半くらい。身長は夢葉と同じくらいの160センチ前後。制服こそ着ていなかったが、桃色のワンピース姿に、セミロングの髪、そして少し不器用にも見える、アイシャドウやリップ。


 それよりも違和感があった。喉仏が出ている。


(この娘、女の子?)


「あら、夢葉ちゃん。いいところに」


 母・絵美と談笑していた京子が視線を向ける。同時に、隣に座っていた子を紹介したのだが。


「あなたも知ってると思うけど、涼よ」


「えっ!」


 夢葉には信じられなかった。小さい頃に会った記憶はあるが、京子の息子、涼は確かに「男の子」のはずだった。


「えっ、涼くん? ど、どういうこと?」


「やっぱ、そういう反応よね」


 呟いてから、京子は困ったような表情を浮かべる。


「あ、あの……。私……」


 遠慮がちに声を上げる涼の声が、少し低い。それは間違いなく声変わりした男の子の声だった。


「ああ、もういいわ、涼。私から説明するから」


 母に制されて、涼は口をつぐむ。


 そして、京子の口から驚愕の事実が明かされることになった。


 松島涼。つまり、松島京子の「息子」の彼は、正真正銘の男だった。

 だが、小学生のある頃から、学校でいじめに遭ったという。つまり、元々、どこか女の子っぽいところがあった、彼はいじめの格好のターゲットにされた。


 だが、それもそのはずで。


 彼は自分のことを「男」だと思っていなかった。性同一性障害。一般にはそう言われる症状だった。現代的に言えば、LGBTに属する、トランスジェンダーとも言える。


 そのため、彼は自分を「男」として扱うことに抵抗を覚え、いつの間にか「女」として振る舞うようになった、という。


「えっと。つまり、『涼くん』じゃなくて『涼ちゃん』ってこと?」


 質問をしながらも、まだ頭の整理が追い付かず、混乱している夢葉。


「そういうことね」


 京子は堂々とそう口に出していたが。夢葉はまだ納得がいってなかった。


「えーと。まだわからないんですけど。つまり、涼ちゃんは今、女の子ってことですか? その……大事な部分とか、胸とかどうなってるんですか?」


 非常にデリケートな問題をズバズバと聞く実の娘に、絵美は少し戸惑ったような表情を見せていたが。夢葉は少しでも核心に迫りたい思いだった。


 一方、涼は照れ臭くなったのか、顔を紅潮させて、視線をそらしていた。何だかその仕草が、すでに完全に「女の子」のように夢葉には見えていた。


「実はそこら辺はまだなのよ。いずれ手術して、完全に女の子になるって本人は言ってるけどね」


「えーっ! マジですか?」


「うん。マジよ」


「じゃあ、女の子には興味ないってことですか?」


 多少なりとも、涼という「男の子」を異性として意識してもいいと思い、ちょっとした希望すら抱いていた夢葉の淡い期待は一瞬にして裏切られていたため、彼女はさらに食いついていた。


「ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに、視線をそらして謝る涼。


 がっくりと肩を落とす夢葉。


 何とも対照的な二人の再会になった。

 前に京子に会った時、涼に対して「ナーバス」とか「デリケート」と言っていた京子の真意がやっとわかった夢葉だったが、さすがにこの展開は予想していなかった。


「まあ、そう肩を落とさないで、夢葉ちゃん。涼もあなたには興味を持ってるみたいで、バイクで一緒に走りたいらしいのよ」


 京子がそう言ってきたため、複雑な気持ちながも、夢葉は顔を上げた。


「バイクで、ですか? 何に乗ってるんですか?」


「つい最近、やっと普通二輪免許を取ってね。まあ、乗ってるのはスーパーカブだけどね」

 恥ずかしそうにうつむく涼に代わり、京子が答える。


「へえ、スーパーカブ」


 これには、夢葉は少し興味を引かれた。


 ホンダ スーパーカブ。それはバイクに乗っていない人でも知っている、超有名な働き者のバイク。


 新聞配達や郵便配達などで使われ、東南アジアでは一家に一台あると言われるくらい有名なバイクで、全世界で1億台以上も売れているという、超ロングセラーのバイクだ。


 何よりも、丈夫で信頼性の高いエンジン、汎用性の高いパーツ、そして力強い車体は壊れにくいことでも有名だ。


 そして、最も特徴的なのがクラッチだ。自動遠心クラッチと呼ばれる、スムーズにクラッチを繋げられるシステムが搭載されており、ホンダの傑作バイクとしてあまりにも有名だ。


 それだけ乗りやすい構造になっている。


「でも、スーパーカブって50ccですよね? さすがにツーリングにはついて来れないんじゃ」


 と心配になって声を上げる夢葉。だが、


「大丈夫よ。涼のはスーパーカブc125だから」


 京子が代わりに説明する。

 つまり、スーパーカブでも一般的なものは、50ccの原付バイクで、配達でもこれかせいぜい90ccが使われることが多いが、夢葉が250ccに乗っていることを知った涼は、彼女と一緒に走りたいため、わざわざ125ccのスーパーカブを選んだという。


 それを聞いて、「女の子に興味がない」女の子になった、涼に対して、夢葉は複雑な感情を抱くのだが、それでもせっかくなので、一緒に走りに行くのも悪くないと思ってしまった。


「まあ、別に走る分にはいいですけど……」


 どこか感情の整理が出来ていない、複雑そうな表情を浮かべて答える夢葉。

 涼は、やはりどこか照れ臭いのか、視線をそらしていた。


 ちなみに、松島涼は現在、高校2年生の16歳。現在、大学3年生になったばかりで20歳の夢葉とは4つ違いだった。


 その日は、京子の車で遊びに来たため、涼はバイクに乗ってきていなかった。


 あまり気乗りはしていなかったが、ツーリングには興味があった夢葉は、涼とメッセージの交換をして、その日は別れた。



 数日後。

 その涼から、何とも女子らしくて可愛らしい、絵文字つきのメッセージが夢葉に届く。


「あの……。今度の土曜日、一緒にツーリングに行きませんか?」


 ハートマークやニコニコマークをつけて送ってくる、元・男の涼に夢葉はまだ慣れておらず、気持ちの整理がついていなかったため、内心、


(気持ち悪い……)


 とすら思っていたが、とりあえず、


「わかった。いいけど、どこに行く? 涼く、じゃなかった涼ちゃんの好きなところでいいよ」


 思わず、「涼くん」と呼びそうになる夢葉。


 しばらくして。


「えっと。それじゃ、山梨県に。フルーツラインとか、笛吹川ふえふきがわフルーツ公園とか、ほったらかし温泉に行ってみたいです」


 またも、女の子らしい、絵文字つきのメッセージが届く。


「わかった。じゃあ、土曜日の8時に、道の駅八王子滝山で」


 それだけ返信して、


「わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします」


 と、丁寧で女の子らしいメッセージを返してくる涼。


 それでも夢葉には複雑な思いだった。

 というよりも、バイクを通して、夢葉自身がどっちかというと、「男らしい」性格に変わった気がしていたからだ。


 普通に男物のジャケットを着てツーリングに行くし、缶コーヒーでさえ、最近はブラックで飲むようになっていたし、服装ももちろんバイク中心になるから、全然スカートすら履かなくなっていたからだ。


 むしろ、男なのに、自分よりも女の子らしい、とすら思えるこの涼に対して、どう接すればいいのかわからないのだった。



 当日。

 未だに感情の整理がつかないまま、夢葉はいつものように、コミネのライダースジャケット、黒いジーンズ、バイクグローブを装着し、フルフェイスヘルメットをかぶって、目的地へ向かった。


 道の駅八王子滝山には、約束の10分前の午前7時50分頃に着いた彼女だが、涼はすでに来ており、自分のスーパーカブの前で所在なさげに立ち尽くしていた。


 そんな不安そうな表情が、夢葉の登場で一気に明るくなる。


(くっ。悔しいけど、なんかかわいい)


 自分よりも女の子らしい、元・男の子に夢葉は、何だか負けたような気がしていた。


「夢葉さん。来てくれないかと思いました。よかったぁ」


 そんなことを言って、安堵の表情を浮かべる元・男の子。その格好は、青色のジージャン、足が細く見えるようなスキニーパンツっぽいデニム姿に、白いジェットヘルメットを持っていた。

 自分より明らかに女の子っぽい格好の涼の姿に、夢葉は苦笑いしていた。


「昔みたいに『夢葉ちゃん』でいいよ」


 そう言うと。


「えっ、はい。わかりました、夢葉ちゃん」


 満面の笑顔で微笑む涼。


(いちいち仕草がかわいいんだよな)


 小さい頃に遊んだわずかな記憶でも、確かに涼は、どこか男の子っぽくない、かわいらしい部分があった。そう思いながらも、彼の、いや彼女の乗ってきたスーパーカブに目を向けると。


 パッと見た形は、一般的な配達に使われるスーパーカブだった。ただ、色が青を主体としており、レッグシールドとエンジンの上、シートの下の部分だけが白く塗られており、一方でシートが赤と、なかなか目立つバイクだった。

 車体自体は、綺麗で、傷もほとんどない。


「へえ。これがあなたのスーパーカブ。なかなかキレイね」


 夢葉が褒めると、涼は大げさなくらい喜び、


「はい! ありがとうございます。私、これを中古でたまたま見つけまして。状態のいい、新古車に近い、いいバイクです」


 と喜色を面上に張り付ける。


「じゃ、早速行こうか。とりあえず山梨県でいいんだよね。でも、涼ちゃんのバイクは125ccだから、一応、国道20号を走ろうか」


 125cc以上は高速道路に乗れるのだが、実際問題として、125ccで高速道路を走るのはかなりキツい上、そもそも涼のスーパーカブc125は124ccだった。夢葉はそこに配慮していた。


「はい。あのー。とりあえず私が先頭でもいいですか?」


「えっ、うん。別にいいけど」


 珍しく前向きな涼の言葉が少し意外だったため、そう言っていた夢葉だったが、すぐにこの決断を後悔することになる。


 走り始めてすぐにそれはわかった。


(遅い)


 涼のスピードは、夢葉が思った以上に遅かった。平均時速40キロくらいだった。

 確かに法定速度を守れば、そういう走り方にもなるのだが、バイクとはそもそも最低でも時速50~60キロは出さないと、快適な速度とは言えない。


 常々、そう感じていた夢葉にとって、これは苦痛だった。


 とりあえず、しばらくは我慢しながら、涼に従い、走っていく夢葉。

 同時に、彼女の走り方も見ておこうと思った。


 だが。


(何だか危なっかしいというか、遠慮してるように見えるなあ)


 夢葉が感じた彼女の走りは、いわゆる「バイク乗り」には相応しいようには見えなかった。


 すべてにおいて、遠慮がちなのである。


 前に遅い車がいても抜こうともしないし、交差点で詰まっても、すり抜けもやらない。カーブでは不必要なくらいブレーキングをするし、何だか調子を狂わせられる夢葉だった。


 確かに安全運転なのはいいのだが、どうも普段の自分の走りからは、程遠いように思えた。


 もっとも、それはきっと夢葉がバイクに乗って、成長した証なのだろうけど、彼女自身は、今の涼の走りに、もどかしさを感じずにはいられなかった。


 ひとまず、甲州街道、つまり国道20号をひた走り、神奈川県に入り、相模湖を横目に見て、山梨県に入り、最初に国道沿いの上野原市のコンビニで休憩を取る涼。


 いつものように、ブラックコーヒーを飲む夢葉に、涼は不思議そうな眼差しを向けた。


「夢葉ちゃん。ブラックコーヒーなんて飲むんですか?」


「ああ、これね。何か先輩たちと走ってたら、いつの間にかね。私もすっかり男らしくなってきたみたい」


 自嘲気味に微笑む夢葉だったが、涼は、


「そ、そんなことないです。カッコいいです」


 と照れ笑いを浮かべていた。


(だから、いちいちかわいい仕草をするなっての)


 何だか無性に腹立たしさすら感じていた夢葉。

 ついこう口走っていた。


「涼ちゃん遅いから、しばらく私が先頭に立つね。えっと、とりあえずフルーツラインでいいんだよね?」


 そう言うと、涼は少し驚いたような表情を浮かべ、


「え、はい。そうです」


 と頷いた。


 そこからは、夢葉が先頭に立って走り出したが、ついいつものくせで、スピードを上げて走っていたら、いつの間にか涼のバイクが後ろにいなかった。


(ちょっと飛ばしすぎたかな。でも、目的地はわかってるし、大丈夫でしょ)


 そのまま気にせずに、彼女は一気に国道20号を走り抜け、大月市から笹子トンネルを越え、甲府盆地を見下ろすところまで来たところで、右折して、フルーツラインと呼ばれる広域農道に入ったところで、路肩にバイクを停めた。


(涼ちゃん、遅いなあ)


 そう思いながらも、携帯でネットサーフィンをしながら、じっとしばらく待っている夢葉。最悪、メッセージを送ればいいと思っていた。


 やがて、20~30分も待った頃。ようやく彼女のスーパーカブが姿を現した。


「ご、ごめんなさい、夢葉ちゃん。私、そんなに速く走れなくて。怖いんです」


 いちいち女の子らしい態度を見せる涼に、内心イライラするような思いを抱いていた夢葉だった。


 だが、その気持ちは徐々に変わってくることになる。


 フルーツラインは、この辺りを走る広域農道だが、眼下に甲府盆地を見下ろすことができる上、信号機がほとんどないので、快適に走ることができる道だった。


 その途中、「牛奥ぎゅうおくみはらしの丘」と呼ばれる駐車場でバイクを停めて甲府盆地の写真を撮り、さらに涼が行きたいと言っていた、山梨県笛吹川フルーツ公園に行ってみると。


 その日は、春めいており、ぽかぽかと暖かい陽気に、少し雲が出ている程度だったため、遠くに富士山も雄大な姿を見せていた。


「キレイ……。素敵ですね」


 うっとりとした表情を浮かべ、涼は写真を撮ったり、売店でアイスクリームを買って、いかにも女の子らしく、小さく口を開けて、ゆっくり食べたりしていた。


(ああ、この子は本当に『女の子』なんだ。気持ち悪いとか思っちゃダメなんだな)


 そう、何だか悔しい思いを感じながらも、夢葉は思い直すのだった。

 同時に、自分がいかに「男っぽく」なったかを再認識して、少し沈んだ気持ちになっていた。


(まあ、翠さんはともかく、怜さんみたいのに付き合ってれば、確かに男っぽくなるか)


 同時に自分の男らしい部分を、怜のせいにしていた。


 一通り涼の希望を周り、最後にこの近くにある「ほったらかし温泉」に向かった二人。


「じゃあ、入ろうか」

 と口走った夢葉だったが。


(ん。そういえば、涼ちゃんは女の子っぽいけど、まだ大事なところはついているから……。つまり、この格好で男湯に行くということか)


 そう思い、


「ちょっと待って」


 呼び止めていた。


「何ですか?」


「その……。涼ちゃんは男湯に行くんだよね?」


「ええ、そうです。不本意ですけど」


「その……。大丈夫なの、色々と?」


 心配になってそう声をかけると、満面の笑みを浮かべた涼が、


「ええ、大丈夫ですよ。慣れてますから。心配してくれてありがとうございます」


 丁寧に頭を下げて、彼女は、軽い足取りで男湯に向かって行った。女の子にしては少し大きい、その背を見送りながら、夢葉の心にはやはり複雑な感情が渦巻いていた。


(いや、慣れてるって言っても、それは『涼ちゃんが』でしょ。見た目が女の子みたいな涼ちゃんがいきなり男湯の脱衣所に入ってきたら、男は驚くでしょうが)


 そう思って、溜め息をついていたが、仕方がないから、彼女は素直に女湯に向かうのだった。


 その後、男湯でちょっとした騒動があったことを、もちろん夢葉は知らない。


 ほったらかし温泉。


 そこは甲府盆地を見下ろす小高い丘の上にあり、「あっちの湯」と「こっちの湯」に分かれている。


 特に「こっちの湯」からは天気がいいと富士山が真正面に見え、甲府盆地を眼下に見下ろすことができるという、絶景露店風呂として、この地域のみならず、東京でも有名な場所だ。


 真冬ほどではないが、それでも晴れていたこの日、雲がかかっていたが、遠くには富士山の絶景が見えるのだった。


(はあ。確かにここはいいところだね)


 その絶景の富士山をしばらく露天風呂に浸かりながら、ボーっと眺める夢葉。


 しかし驚いたことに、女湯から出てきた夢葉よりも、涼は長風呂だった。


(普通、女の方が長風呂なんだけどな)


 苦笑しながらも、外のベンチで待つ彼女。


 風呂上り後、男湯であった騒動など気にもしていないといった、明るい表情のまま、涼は売店で「温玉揚げ」を買って、可愛らしい仕草で口に運んでいた。


 結局、帰りは、何だか申し訳なくなった夢葉は、遅いペースの涼に合わせて、ゆっくりと甲州街道を走り、道の駅八王子滝山で解散となった。


「夢葉ちゃん。今日はありがとうございます。楽しかったです! また行きましょうね」

 丁寧に頭を下げる、涼の仕草が相変わらずかわいらしく思えて仕方がない夢葉。


「うん、私も。また連絡してね」


 相手の手前、そう言ってはいたが、夢葉は内心、


(でも、ちょっと遅すぎだよね)


 と思っていた。

 同時に、


(悔しいけど、心は完全に『女の子』だな、この子。むしろ私の方が女の子っぽくないな)


 と、自分の言動や態度について、少し反省するのだった。

 同時に、バイクに乗り始めてから、すっかり「女の子」らしさを失っている自分にも気づかされたのだった。


(そういや、最近、全然スカートも履いてないし、確実に女子力落ちてる気がする……)


 夢葉は元々、同年代の女子よりも、オシャレには敏感な方ではなかったが、それでも人並みの女子力は持っていたし、スカートも履いていた。ところが、バイクに乗り始めてからは、ズボンばかり履いて、スカートを履く機会が確実に減っていた。


 それは「女」としては、複雑な思いがするのだが、今さらバイク乗りをやめることも決断できない夢葉は、もうその辺りについては、内心諦めていた。


(つーか、涼ちゃんがこのまま本当の『女の子』になったら、普通に彼氏が出来るってことか。それはそれで複雑だなあ。相手の男は、彼女が元・男って知ったらどう思うんだろう? いや、その前に私は彼氏なんて全然出来ないんだけど!)


 そう思いながらも、彼女の青春はまだまだ続くのだった。

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