第2話 ロンからの手紙

(おねえちゃん!おねえちゃん。ねぇねぇ母さんみたいにピアノ弾いて。え?弾けないの…じゃあ…)


 夢を…見ていた気がする。夢というのは

不思議なものだ。見たそばから忘れていく。

目覚めの雰囲気に微睡みながら徐々に身体を

起こす。ココはどこだったけ?ボンヤリと

室内を見廻す。そうだココは選手にあてがわれたホテルの一室…

国家代表選手とだけあって待遇は厚い。

三方のみ壁があった路地裏での生活とは

異なり四方全面を防音壁で取り囲んだ部屋。

カード端末でのロック式ドアでの安心安全のセキュリティに、

吹きさらし・穴あきの布張り天井とはうって

変わって天蓋付きのベッドにシャンデリアが

部屋の中央には真っ白なテーブルが設えられている。

ベッド側に設置されているボタン一つでルームサービスへ取り次ぎできる上に外はSPが死守してくれる。

何不自由ない環境。でも…

「あの頃見えた空がココにはねえな」独りごちる。

ゆるい環境だとなまってしまう。

あの頃のハングリーな精神。

どんな汚い手を使ってでも生きのびようとする思考。ルールなんてもっての他。

クソくらえだ。


 そんな事を考えていると、ノックの音がする。

ルームサービスをとった覚えはなかったので

魚眼レンズから外を除くとSPが仁王立ちしていた。

「なんのようだ。まだ対戦には数日あるハズだろ?」

「鈴麗選手にお手紙だそうです」

丁重な言葉遣いとはうらはらに慇懃無礼な

態度で封筒をよこす。

(…手紙?ウチに?)

「さんきゅ」

開けてみると手紙の主はロンからだった。

かすかに心臓がしめつけられる。

ウチは何を期待しているんだろ?



 『麗煌さん』へ

まずは第一回戦突破おめでとう…と言いたいけれど

すなおには喜べない。何故なんだ?

何故君は鈴麗を語ってトーナメントへ出ている?

あれから目を覚ました鈴麗の憔悴ぶりったらなかった。今も家で引きこもってしまっている。なんで?どうして?

コレまで彼女の努力と苦労を間近で見続けていた僕なんだ。あの娘の痛みは刺すようにわかる。

彼女が一体何をしたっていうんだ!

せっかく掴み取った権利を横取りして

なりすますなんて。君がそんな娘だとは

思わなかったよ。


「どう…されました…か?」

言葉が出てこなかった。代わりに思い切りよくドアで返事をさせる。


今夜は寝付けそうにないなあ。








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