第12話宿泊と書いてケッコンと読みたい

「うわぁ、可愛い部屋!」


 案内された部屋はピンクを主にしたゆめかわな女子ルームである。

壁紙もカラーボックスや棚、すべてがピンク色。

所々に置かれたレースの編み物や、アクセサリー、インテリアがかかれば、そこはまさに女の子専用の空間である。


「そ、そう? へへへ(昨日一晩で部屋改造したなんてとても言えない)」


「まさに女子の部屋って感じだな! うわー、こういうの憧れる!」


「い、いやぁ、そんな(私は六道さんにあこがれているよ!!!!)」


「そういやさ」


「?」


「さっき何で赤マムシ持ってたの?」


 今一番聞かれたくないことを、イヴは笑顔で突っ込む。

瞬時に汗だく、ガクガクプルプルする足腰。

この笑顔に対し、どう答えるべきか。


(六道さんに飲ませてえっちな雰囲気になろうとしたの)


 却下。確実に今の関係が終わる。


(たまたま父が持っていて)


 却下。父は現在出張中。バレたら終わる。


(妹がふざけて持ってきちゃって)


 却下。妹にぶん殴られる。


 考察時間、2秒。

 その間に流れた汗の量500ml。


「どうした?」


「え、え、え、えーと、しょのぉ……(考えろ! 考えろ私!)」


「?」


「えっとぉ……(考えるんだ、ハ〇ターxハン〇ーのウェ〇フィンのごとく!!!!)」


「ま、なんでもいっか。でもさ、あれ精力剤だろ? 二人してムラムラしちゃったりしてな」


 ニシシと笑いながら、イヴは綾香の額を小突く。

まるでそれはNAR〇TOのうちはイ〇チの凸トンのように。


「……」


「どうした? もうムラっときた?」


「私は……」


「ん?」


「私は……この瞬間のために……生まれてきたのだ」


「そうなの?」


 果てそうになりながら、綾香は目の前の景色を脳内メモリに深く刻みつける。

些細な動き、些細な言葉、その髪の毛の一本一本の動きでさえも正確に。


 イヴが部屋にいる。

それだけで綾香にとっては一大イベントである。

 開始早々赤マムシの失態をしてしまったのに、イヴはかえってそれをいい方向へと持って行ってくれる。


「あ、これ気になってた漫画だ。読んでもいい?」


 荷物を置き、イヴは本棚に手を伸ばす。

 綾香は答えない。答えることなど出来ない。

ただ、一度、小さく頷くと目を閉じた。


 午前中より始まったお泊り会であるが、その内容は決められてはいない。

イヴは適当に腰掛けると、漫画を読んでは次の巻へと手を伸ばす。


 綾香はただ、その様子を見ている。

見ているだけで満足している。


(あぁ、私の部屋に……聖母がいる、女神がいる)


 漫画に夢中になっているからか、イヴはまるで自宅にいるかのようにくつろいでいる。

ノースリーブのシャツからは時折脇が見えたり、その先にある空間まで見えてしまう。

わずかに見えた空間の先――そこには膨らみを包むピンク色のブラジャーが見えた。


「綾香は結構漫画読むの?」


「え、あ、うん、読むよ」


「そうなんだ。こういう恋愛系とかが多いの?」


「恋愛も読むけど……少年誌のも読むよ」


「ワン〇ースとか?」


「あーそっち系もだし、終〇のワルキューレとかも」


「え、それも持ってるの? あとで見せて」


「うん、いいよ(ということはしばらく女神鑑賞が出来るわけですね、ご馳走様です)」


 しばらく漫画を読んでいたイヴだったが、座っている体勢に疲れてきたのか、背を伸ばす。

両手を思い切り伸ばし、綾香の視線は脇へと突き刺さる。


「ずっと同じ体勢だと身体硬くなっちまうな……ちょっとベッド借りていい?」


「ぶえ!?」


 返答を待たず、イヴはベッドにうつ伏せになる。

靴下も脱いで裸足になると、ゆっくりとバタ足をしながら続きを読み始める。


(裸足!? なんだあの可愛いあんよは!? あの可愛い動きは!? 誘ってんのか!?)


 今、目の前には選択肢があるような気がしていた。


・足をくすぐる。このチャンスを逃すことはない!

・くすぐるなんてとんでもない。見ているだけで幸せだもの……


 ゴゴゴゴゴゴ……


(これは一世一代のチャンスッッッ! この機会を逃すことはない……

そう、これはあくまでただの女の子同士のイチャイチャッッッ!!!

なにを躊躇うことがあるッッッ!!! いけぇ、綾香!!!)


 それはまるでジョ〇ョの主人公のように。

近距離パワー型、精密動作A。


(……このアヤカ・コバヤシには夢があるッッ!)


 両手を構える。


(六道イヴとより親密な……誰も近づけないほどの関係になること!!!)


 あんよが、ゆっくりと手招きする。


 選択肢は――前者。


(オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!)


「!?」


「オラオラオラオラオラぁ!!!!」


「え、ちょ、あははははくすぐったい、ちょやめろって!!!」


 綾香は止まらない、止まる事なんて出来なかった。

しかし、イヴも負けてはいられないと日頃鍛えている筋力を披露すると、綾香の胸倉を掴んで引き寄せた。


「!?」


「いきなり人の足くすぐるたぁ、いい度胸だ! こい!」


 ドサリ。


 逆に綾香のことをベッドに押し倒すと、イヴが覆いかぶさる。

 長い髪が――綾香の頬を撫でた。


 いい顔が、近いッッッ。


「綾香がこんなことするとは思わなかった」


「こ、これは」


「お仕置きしてやるよ」


(やはり私は……この瞬間のために……生まれてきたのだ)

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