キュウリが嫌いで温泉が好き

ゆーどら

キュウリが嫌いで温泉が好き

ポリポリとキュウリを食べながらココアを飲む、弁護士の塩田胡瓜(しおだきゅうり)は、気だるげな表情をしていた。

実はキュウリはそんなに好きではないのだが、今日は自分の名前的にもキュウリを食べたいという気分だった。テーブルの上には味噌が置いてあり、ラベルには大きく特性自家製と書いてあるが実はただの市販の味噌だ。彼は恥ずかしいほどプライドが高い。


そんな暇な弁護士ライフのなか、塩田の元に一人の男が現れた。早い話が弁護をしてほしいということらしい。


塩田は口に味噌のつけたまんま、事務所のソファに腰をかけるよう男に促す。少しだるい。味噌が少し甘い。

「本日はどのような件で?」



依頼人の男は言う

「実は、人生と書いて人が生きることの出来ないほどの借金を抱えてしまいまして……」


またか。また借金絡みなのか……!

塩田は内心イラつきながら、まるで味の濃い味噌のようにしょっぱい顔で言う。



「まぁ……ちょっとね。来て下さいよ」



塩田は依頼人を連れて外へ出た。




向かったのは、スーパー銭湯セントリウヌ。塩田の行き付けだ。依頼人を連れて銭湯へ行くこと。これは塩田独自の変わったルールだった。「男同士は素っ裸ですっぱすっぱ話すもんだ!」と、昔死んだ父ちゃんが言っていたそうだ。塩田という男はオヤジの言葉をずっと心に刻んでいるのだ。



「弁護士さん……なんで銭湯に?」

依頼人は大きく困惑した表情で言う。



「すっぱい表情になっちゃって。まぁ……いいから肩までつかってくださいよ。入りながら話しましょう」

塩田は相変わらずのしょっぱくだるげな表情で、依頼人に言う。




塩田と依頼人はふたり、裸で酒をかわす。冷えた肌に熱い露天風呂。ふたりはゆっくりと湯に浸かりながら静かに空を見上げた。今夜は良い月だ。


1分ほどの心地の良い不思議な沈黙が続き、静かな月の世界に塩田は口を開いた。

「ね、依頼人さん。あの月を見てると地球の出来事なんてどうでもよくなりませんか。それくらい月は輝いている」


「もし僕らが月へ行ったとして、結局は地球が恋しくなるんだろうなぁ。それが地球の温泉の力だって……。昔に死んだ親父が言ってたんです。なつかしいなあ」


塩田の顔は優しい笑顔になっていた。依頼人も思わず優しい味噌のように笑うのだった。


依頼人の表情も幸せそのものだった。そう、もう何もかも忘れていたが、わたしたち人間が持ち合わせていたはずの純粋さを取り戻せた気がした。


「弁護士さん。俺、あなたに会えてよかった」



何にも解決してないが本当に大切なものを取り戻してくれる、幸せの弁護士。いつか、あなたの傍にも塩田胡瓜は幸せを届けに来てくれるのかもしれない。



エンド


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