第32話 信長の真意は?

 信長がキリシタンの布教を認めたのは、海外との貿易も考えていたからだろう。現実的な利益もあるだろうが、国内の宗教勢力への対抗勢力として考えてもいたのだろう。ただ、キリシタンも純粋な布教活動で来ていないのは、誰の目にも明らかではあったが。

「光秀、忘れていたが、家康を京に呼び寄せて祝賀会を行うつもりだ。そのうち、通達を出すが酒宴を取り仕切れ。西に向けて軍を進める我らにとって、家康のいる三河は、東の守りの要とも言える。武田攻めでも活躍した慰労が本当の目的なんじゃがな」

 西に毛利がいるが、東は武田がいなくなったとはいえ、北条、上杉がまだ健在だった。東からの脅威がなくなったわけでもない。東からの敵勢力の進軍があった場合は、三河は重要な場所だ。

「畏まりました。この光秀、一流の食材と料理人を用意して、おもてなしをいたします」


 その日は、珍しいことに信長と光秀は、長く話し込むことになった。信長がほぼ一方的に話しているだけなのだが、信長が自分の考えを家臣とはいえ話すことは珍しい。家臣だからこそ、自分の考えを話すことも危険な場合がある。毛利攻めを前に気分が高揚していたのか?

 信長との会合を終えた光秀は、屋敷から出た。今日の信長との対面で、少しだけ信長という人物が理解できたような気がする。光秀は、坂本城への帰路についた。琵琶湖に沈んでいく夕日が今日はやけに綺麗に見えた。


 光秀が、坂本城に着くと、重臣一同が揃って光秀の帰りを待っていた。信長から呼び出されたので、心配していたのだろう。無事の帰城を確認して、一同安心はしたようなのだが。

「殿、お待ちしておりました」

 斉藤利三の言上の後、一同揃って平伏した。信長に呼ばれたとしても、無事に戻って良かったというのも変な話で、今は織田家の重臣であるわけで主君から呼ばれるというのは普通のことなのだが。しかし、現在の状況があるだけに一同は無事に帰ってきたという気持ちが強かった。ただ、口には出せないのである。

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華の散るが如く 寝多井屋 @kuninoko

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