第31話 第六天魔王

「光秀も、知らぬか。第六天魔王というのは、天界の一番偉い神の事だ。第一天の神が、多聞天などの四天王だ。その上の第二天の神が帝釈天で、第六天の神ともなると、なんでも願いを叶えてくれる。それだけに僧侶が第六天の神に願えば、修行をしなくても何でも叶うのだ。修行などしなくても何でも叶うなら、修行などしなくなってしまう。そのため、仏教修行の邪魔をする存在として、仏教界では魔王と呼ばれているのだ。そこで、信玄が天台座主というので、仏教の敵と言われる第六天魔王と返してやったのだ。まあ、昔から知っている信玄との言葉の遊びだ」

「そうでしたか、その武田家も今では」

「信玄も、天下に号令するには、京から遠すぎた。甲斐に生まれていなかったら、どうなっていたことか」

 どちらも続きの言葉を発しなかった。信長も尾張に生まれていなかったら…もう少し生まれるのが遅かったら…光秀も、越前に逃げて義昭と会っていなかったら…全て運としか言えなかった。信玄が、もっと京に近い場所に生まれていたら…

「光秀、人生とは短いものだ。四国征伐も急がねばならない。宗教勢力も、今後政治に首を突っ込まないようにしなければならない。どこの宗派の味方はしない。どこかを贔屓にすれば、必ず対抗する勢力との争いになる。比叡山を贔屓にすれば、大和の興福寺は黙っていないだろう。同じように、興福寺に加勢すれば、比叡山が敵対する。そのようなものだ。我らは、中立でいる事が大事だ。同じように宗教勢力も中立でなければならない。キリシタンをこの国で布教させたのは、別の勢力を入れる事で、特定の宗派に加勢しないという意思の現れでもあるのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る