第30話 信玄との書状

「土地に縛られ土地と共に生きるのは、農民だ。我らは、武士だ。武士は、自らが生き残る場所に動く。美濃を平定した後に、岐阜に移り更に、ここ安土に移った。理由は、言うまでもない。今までの慣例や、官位、官職に縛られると動けなくなる。水も動きが止まった時から、濁り始める。光秀も、今の坂本の地が先祖代々の土地でもあるまい。状況に応じて、有利な場所に動く。なければ、作ればいい。それだけの事だ」

「この安土の土地に、巨大な城と自由な市を作り、新たな街を作ったようにでしょうか」

「そうだ。ここは、京にも近い。船に乗れば、海にも出る事も容易だ。万が一の場合には、岐阜に引く事も可能だ。京は、守るには難しい土地だ。朝廷や公家の力も残っている。官位や権威に拘れば、京にいる方が有利であるが。その先を見ている。昔からの古い権威や、体制は、一新しなければならない。宗教勢力も、同じだ。宗教の名を借り、所有する広大な寺領から莫大な税を得て、僧兵を雇い、場合によっては信徒を使ってまで、強訴を行い、自らの主張を通す。我が織田家の先祖も、神社の神官だ。宗教に対しては、理解もあるが今の宗教勢力は、力を持ち過ぎた。それを利用する勢力もいる。信玄のように」

 武田信玄という名で有名だが、実際には武田太郎晴信で、晩年に出家し「信玄」と号し武田信玄と呼ばれるようになった。晩年になると剃髪し出家する武将は、多くいたのでそれに倣った可能性も高い。

「信玄からの書状で、天台座主などと自らのことを書いていたので、第六天魔王と返信してやったわ」

「殿、信玄はいつから天台座主などになったのでしょうか」

「座主になどなっておらんわ。信玄が自分に歯向かうと天台宗が、敵になるとでも言いたかったのだろう」

「その、第六天…というのは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る