第29話 信長と光秀
光秀も、恐る恐るグラスを手にして、目を瞑ってグラスに注がれた液体を口にした。口の中に、感じた事のない複雑な苦味と酸味が広がる。経験したことのない物は、味として感じる事が出来ない。得体のしれない匂いと何かしらの味がある液体という感じだ。複雑な表情の光秀を見た信長は、話を続ける。
「経験したことのない物も、二度目、三度目となると、その美味しさがわかってくるものだ」
「私には、なんとも言えない味としか感じません」
「知らない者にとっては価値のないものだろう。知っている者にとっては得難い物だ」
信長は、グラスの注がれた葡萄酒を飲みながら話を続けた。
「光秀、四国の事だが、三好には戦支度をするように指示をした。三男の信孝にも、出陣の準備をするように通達している」
光秀にとっては、予想はしていたが、現実には起きて欲しくない事が進められようとしていた。
「殿の仰せのままに。長宗我部を従わせる事ができなかった私の失態であります」
「毛利を倒せば、次は九州を攻める。長宗我部も、阿波に拘らず次の土地に活路を見出せば良いものを」
信長は、さらに言葉を続ける。
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