第27話 元親の策略

 足利幕府も、軍事的に全国を支配したわけではなく、土地の所有を認める力があったので、各地の国衆も足利に従った。戦国乱世になり、幕府中央からの支配が弱まり、守護、守護代がそれぞれの土地を勝手に支配し始めた。それまでは、各地に寺社の所有する土地や公家が所有する土地があり、武士は、それらの土地の管理を行い、税を徴収し中央に輸送する役目を負った。当然、手数料は頂くのだが。

 徴収した税を輸送するにしても、武装した兵士が守らなければ中央まで運ぶ事はできない。武士がいなければ、京都の街の繁栄もなかった。京にいる公家も、何もせずに武士が土地の管理と徴収、輸送まで行ってくれるので、優雅に時間を持て余し公家文化に浸ることができた。

 全国から自動的に集まる税によって、幕府も権威と力を持つことができた。応仁の乱が起こるまでは。応仁の乱が起きると、京に税を輸送できる状況でもなくなり、京から逃げる公家も多かった。せっかく、京まで輸送しても送り先がなければ、輸送する意味がない。その税は、各地の守護、守護代、地頭が自らの資金として使う事になった。これにより、軍事力と資金を持った組織が各地に存在することになった。

 土佐の国衆でしかなかった長宗我部家も、戦国乱世により力をつけ、四国制覇まで少しのところまできていた。

「後は、後方からの援軍があれば、我れの勝ちだな」

 元親の思惑は、忠澄も知るところだった。元親は、すでに用意してあった書状を忠澄に渡した。

「これを、明智家に届けてくれ。長宗我部の運命も、光秀殿の動き次第だ」

 忠澄は、書状を受け取ると、元親の前から下がり、部屋を後にする。


 同じ頃、あの琵琶湖のほとりにある屋敷に、光秀は呼ばれていた。前回と違うのは、独りで屋敷に入るように通達されていた。四国の件で、呼び出されているのは間違いがなかった。進展がなく、信長が苛立っているのも明白だった。呼び出されているが、信長に報告できるような事は、何もなかった。信長から怒りを買うのは目に見えていた。光秀の足取りは重かった。

 だが、四国の長宗我部との交渉を委任されたのは光秀であり、長宗我部が四国を取ることに信長も何も言わなかった。むしろ、瀬戸内海の支配に向けて長宗我部の力を利用しようとする考えも推察された。三好が信長に帰順するまでは。三好が信長の配下になったことで、完全に流れが変わった。光秀は、言い訳を色々と考えるが、あの信長の前では通用しないことはわかっていた。それでも、何か良い言い訳はないものか…

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