第25話 長宗我部の思惑

「毛利としては、長宗我部との遺恨は忘れ、協力してもいいと言われております」

 長宗我部と毛利は、瀬戸内海に接する伊予などの領有で何度か戦をしている。かつては、敵であっても共通の敵となりつつある信長に対しては、強力するという戦国時代ならでは考えだ。いや、今でも通用する。敵の敵は、味方。それは、変わらない。

「そうか、毛利殿と組むことができるのであれば、讃岐も阿波も手放さずに済むか」

 元親は、土佐一国から脱却して初めて手にした領地を、簡単に手放す事はできなかった。しかし、信長との戦争ともなれば更に多くの被害が出る事は予想できた。そこで、信長と戦の最中でもあり、中国地方に多くの軍勢を持つ毛利と連携し、四国勢が同時に戦えば、信長に勝利することも難しくはない。

「斉藤殿からは、早く領地を返還するように催促の書状が来ております」

「明智家の考えは、変更なしということか」

 明智家の重臣、斉藤利三は、元親の義理の兄なのだが、経緯が複雑だ。斉藤利三の母の再婚相手が足利義輝の側近を務めた石谷光政で、光政の次女が元親に嫁いでいる。離婚した母親の再婚相手の次女が元親の室。血筋的には、関係なさそうではあるが、確かに義理の兄ではある。更に、斉藤利三の父、斉藤利賢も再婚している。その相手が、明智光継の娘であり明智光秀の叔母にあたる。明智光秀と斉藤利三も、従兄弟の関係になる。その関係性なのか、利三は長宗我部との交渉役となっていた。


 利三としては、長宗我部に領地を返還させ、土佐一国だけでも存続して欲しいという考えだろう。場合によっては、四国討伐軍に明智勢が加わる可能性も高い。自らの手で、義理とはいえ弟を攻めるのは気が引ける。

「それから、御方からは返事は来たか?」

 元親は、特定の人物として名指しこそしなかったが、呼び方からして身分の高い人だろう。

「何度か書状を送っておりますが、いまだに」

 忠澄は、外交における全てに関わっている。それだけ、元親からの信任が厚い証拠だ。

「推測ではありますが、しばらくすれば返事は来るものと思われます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る