第23話 宗忠の武勇

 敵兵は、沼地の中に潜み、城攻めの兵が近づくのを、じっと待っていたのだ。近づいた瞬間に、城から攻撃を仕掛け意識を前方に向けた時に、横から現れて無防備の後ろや横から攻撃を加えた。沼地の中の細い通路では、逃げ道がない。多くの兵が脚を切られ、その場に倒れてしまった。そして、その時を待っていた城内の弓隊が、ここぞとばかりに弓を射かけてきた。後ろに倒れて、盾も離してしまった兵に矢が突き刺さる。盾がなくなった事で、その後ろにいた槍兵、弓兵、鉄砲兵まで攻撃を受けてしまった。脚を切られて、進む事も戻る事もできなくなった多くの兵で、道が閉ざされてしまった。北から攻めた蜂須賀勢も、南から攻めた宇喜多勢も同じ罠にはまってしまった。負傷兵で、城までの道が閉ざされてしまった。


 もう一つ残っていた城の西側の門で動きがあった。西門が開き騎馬隊が、猛然と進んでいく。猛将・難波宗忠が率いる軍勢だ。罠にはまった敵部隊に対して、側面から攻撃をするためだ。西側には、主力の攻城部隊はなく、少数の部隊が配置されただけで容易く突破される。

 難波隊の前に、進路を塞ぐように土煙をあげながら騎馬隊が現れた。

「我は、加藤清正だ!ここを通りたければ、倒してみろ」

 官兵衛が何やら策を授けた若武者だった。後に猛将として知られる加藤清正の若武者時代の姿だ。

「小僧が生意気に!我が槍の餌食としてやる!」

 難波宗忠は、清正の姿を見て若さに侮ったか、単騎で清正に向かって行った。宗忠に従う者達も、後を追う。清正は、その場で槍を構え迎え撃つ。経験豊富な宗忠に対して、清正は、まだ経験が浅かった。しかし、彼には若さという武器があった。宗忠が、接近する。騎馬に乗り鎧で全身を固めた武者が接近してくる姿は、圧巻だった。騎乗の人物が、殺気を持って迫ってくるのだから、一層の重圧を感じる。宗忠が、槍を突き出してくる。早く、鋭い。清正は、自らの槍で宗忠の槍を受ける。清正の腕に受けたことがない衝撃が加わる。宗忠は、更に次の攻撃を繰り出してくる。清正も負けじと全てを受ける。二人のあまりにも凄まじい攻防に周りの者も見守ることしか出来なかった。互いに槍を受けた状態で、力勝負で槍を押し合う。清正が力任せに槍を前に押し出す。宗忠も、精一杯受ける。力勝負では、宗忠も部が悪いのか、少しずつ押し込められる。顔がはっきり見えるくらいの距離で、力勝負。清正、宗忠の互いの顔に汗が溢れ出してくる。槍同士がギシギシと音を立てる。

「やりおるな。力は、相当なものだ。しかし、戦というのはそれだけではない」

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