第22話 開戦・高松城

 秀吉軍の配置が終わった頃には、昼前になっていた。本陣にいる秀吉が采配を勢いよく、前に突き出す。それと同時に、本陣から太鼓の音が響く。それを合図に、北は蜂須賀勢を中心とした秀吉の与力衆が主力の部隊として攻撃を開始する。南からは、宇喜多勢が攻撃を開始した。南からの城攻めの主力だが、織田軍に加わったばかりの宇喜多勢が担当した。新しく加わった武将が次の戦闘において、先陣や一番被害がでる場所を担当する事は、よくある。新参者だけに、疑われても仕方がない。万が一、寝返ったとしても、先陣であれば本体よりも遠い場所であり、いきなり大将が討たれるというリスクが回避できる。また、元からの武将達と比べて早く手柄を立てれるポジションに置くことで、戦果を上げやすくして、いち早く家臣団に迎え入れる事もできる。


 主君や従う大名を変えた武将に取っては、最初の試金石とも言える。蜂須賀勢も宇喜田勢も、沼地に浮かんでいるような細い道を進み、城門を目指す。最前列には、木製の盾を横に並べた歩兵がゆっくりと進んでいく。その後ろに槍を持った槍兵。更に、弓兵、鉄砲が続く。騎馬隊は、その後方で突撃する機会を待っている。城内からは、不思議と全く攻撃が開始されない。ただ、城内からのただならぬ雰囲気は感じ取れる。ひっそりと息を潜めて、攻撃の瞬間を待っているのだろう。じりじりと城門に向かって、攻撃隊が近いていく。盾を持った兵の手にも、汗がじわりと染み出してくる。いつ来るかわからない攻撃を待つのも、生きた心地がしない。このまま攻撃がなければいいという身勝手な感情も湧き上がってくる。いや、攻撃をしているのは自分からだと気づいて、矛盾した感情に失笑してしまう。


 緊張感を持ったまま、城門まで二十歩くらいまで近づいた。走ればあっという間の距離だ。その時だった。城門の上や、城壁から多数の敵が現れ、矢を射かけてきた。盾にいくつかの矢が突き刺さる。地面にも、矢が突き刺さる。盾がなければ、多くの矢が体を貫いていただろう。


 多くの矢は、盾に阻まれて本来の役目を果たせなかった。盾に当たらなかった矢も、地面や甲冑に当たっていた。このまま、盾を連ねたまま城門に行ける。そう自信を持った。城門までたどり着き、門を打ち壊し城内に大軍が乱入すれば直ぐに戦は終わる。


 次の瞬間、目線の端で動くものが見えた。そこには、何もないはずだが。視線を動かした先には、泥だらけの人影が見えた。その人らしい人影は、薙刀のような物を後ろから振り払う。なんだ?誰だ?泥だらけの人が回転している。いや、違う。自分が回転しているのだ。後ろから脚をなぎ払われ、後ろに転ぶように倒れていく。

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