第21話 風雲・高松城

 高松城も、周囲の支城を攻略しているので、すでに最後の段階に至ってはいた。沼で囲まれて堀のようになっている高松城は、狭い通路のような道が三本しかなく、寄手は攻めるルートが限られていた。少数で防衛するには、最適な城でもあった。山城であれば、水を断つことが容易であったが、沼地にあるだけに水は簡単に確保できる。食料を豊富に備蓄されていると、長期間の篭城も可能だった。


 中国への遠征では、兵を損失をできるかぎり抑えるために、兵糧攻めも行ったが、毛利の援軍が迫っているため、今回の戦いは早期決着が理想だった。守将の能力や守備兵の士気を考えると、早期に落とすのは難しい状況ではあった。毛利の援軍が到着し、城の守備兵と挟み撃ちされるのは一番警戒しなければいけない。


 官兵衛は、一人の若武者を呼び小声で指示していた。諸将は、すでに指図に従いそれぞれの陣営に向かっていた。若武者は、気合に満ちた顔をしていた。若いながら、いくつかの死戦を超えてきたような雰囲気だ。官兵衛が直々に指示を出しているところを見ても、腕はたつのだろう。


 若武者は、話が終わると軽く一礼し、槍を小脇に抱え小走りに陣営に向かって行った。官兵衛は、その後ろ姿を見ながら、作戦の成功を若者に託した。

 準備を終えた陣営から続々と兵が進んで持ち場に向かう。三万もの軍勢ともなると、移動するだけでも大仕事だ。兵種ごとの編成まで進んでいるわけではない。秀吉とその与力衆では、兵種ごとに再編成も可能だが、加わったばかりの宇喜多勢も多く、全体的に見ればそれまでのように部隊単位での行動となっている。その地域で召集された部隊は、常に行動を一緒にしていた。編成に偏りがあり、騎馬の数や弓矢、鉄砲の数も異なり、効果的な攻撃が行えるとは思えなかった。しかし、同じ地域で育った仲間同士では、自然と連携ができていて、必要な時に召集をかけるだけで、必要な数の兵を集める事ができた。兵とは言え、普段は農作業を行っていて、まともな訓練を受けている者は皆無だった。それは、この時代は、どこの国でも同じで、農作業が繁忙になる時期は戦は行えなかった。信長は、常に戦ができ、訓練も十分にできる部隊の比率を増やしていたが、数万もの兵を常時待機させることは、無理があった。


 戦時になれば、臨時的に召集をかけて人を集めて簡単な訓練をすることで、兵を増やすという方法は、この時代以降もずっと続く。鉄砲だけは、簡単に撃てるようにならない。撃つことは出来ても、命中させるには訓練が必要になってくる。武器が高度になり、精密になっていくと高度な訓練が必要になり、兵の専門化が必要になってくる。

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