第19話 大惨敗

 撤退する様子をみた秀吉軍は、宗忠の後を追いかける。奇襲を受けたまま、相手をほぼ無傷で返すわけには行かなかった。追いかける兵は、宗忠の後ろ姿を見ながら走る。走る速度が遅くなった。遅くなったというより、止まってしまった。何が起こったのか?そこら中で、動けなくなった。

「まずい、この城の周囲は、湿地帯だ」

 官兵衛が思い出したように、叫ぶ。逃げていた宗忠勢が、またも反転した。何をするのか?また、こちらに突進してくるのか?宗忠勢は、弓を構え矢を放った。ぬかるみで動けなくなった兵に次々に矢が刺さる。動かない標的を外すことはない。

 矢を射るだけ射った宗忠は、意気揚々と城へ引き返した。秀吉軍の完敗だった。地理も分からず、月もない夜では、地元の地理を知り尽くした相手方が一方的に有利だった。兵の数だけは、こちらが多く有利だったが、同じような戦いをする限りは秀吉軍の被害が増えるばかりだ。


 夜が明けて、被害を確認したが、一方的に秀吉軍の被害だけが目立っていた。敵勢は、百騎程度で襲ってきて、数人程度の被害だろう。こちらの被害は、死傷者が二百五十人ほどだった。官兵衛が、気づいて対応した事で抑えられている。もっと対応が遅ければ、さらに被害は増えていただろう。

「見張りの者は、何をしていたんじゃー」

 秀吉が、大声で重臣達を叱りつけていた。返す言葉もなく、うなだれる重臣達。だが、酒を呑ませたのは、御殿、秀吉様ではないか。頭の中では、秀吉にそう反論していた。だが、そう思っていても、口には出せない。いつの時代にも、人や組織に仕えるのは、苦労が多い。

 蜂須賀小六が立ち上がった。

「朝になれば総攻撃じゃ。意気消沈しては、戦意に関わる」

 小六は、この場を何とか治めようと、秀吉とも付き合いが長いだけに、口を挟んだ。

「兄者、皆も疲れておるし、もう良いではないか」

 弟の秀長も、小六の言葉の後に続けた。

「わかった。もうよいわ。わしは、寝る」

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