第18話 猛将・宗忠

 宗忠は、槍を引き抜くと官兵衛に向かって、馬を走らせる。官兵衛の周りの兵が、宗忠に向かって構える。宗忠が並の武将でないことは明白だった。宗忠の槍が先に、官兵衛に向けて突き出される。官兵衛は、刀でそれを払うように受ける。槍は突然動きを変え、頭上に振りあげられていた。頭上に振りあげられた槍が、官兵衛の脳天に向かって勢いを増して振り下ろされる。刀は、空を斬り間に合わない。咄嗟に、官兵衛は右に倒れ込みかわす。槍は、振り下ろす勢いのまま地面を叩いた。突きからの叩き下ろしが、ほぼ同時に出されているように見えた。どちらも、本気の攻撃でありながら、どちらの攻撃もフェイントでもあるようだ。

「うまくかわしたな。次は、そうは行かんぞ!」

 宗忠は、馬上から叫びながら槍を構える。官兵衛は、倒れた体勢のまま刀の切先を宗忠に向ける。このままの体制では、次の攻撃をかわすことは難しい。足を痛めている官兵衛は走ることも、すぐに立ち上がることもできない。万事休すか。

 周囲の兵も、宗忠に攻撃を加えるが尽くかわし、捌きながら兵を倒していく。宗忠の槍が、官兵衛に向かってくる。官兵衛も、刀で受ける。馬上から、槍に体重を乗せて官兵衛を串刺しにしようと力を入れる。ジリジリと、槍先が近づいてくる。

「足が自由に動けば…」

 そう思った官兵衛は、思い出したように足を動かした。倒れていながらも、かろうじて動く足を蹴り出し、槍を横から蹴飛ばした。しかし、状況は不利なままだ。このまま、宗忠の攻撃を防げる自信はない。

「毛利本隊との戦いの前に死ぬのか」

 官兵衛にとっては、まだ前哨戦に過ぎないはずだった。その時、右からも左からも歓声と共に、多くの兵士が飛び出してきた。奇襲に気がついた多くの部隊が反撃を開始したのだ。宗忠も周囲を囲まれた。

「今日は、これまでじゃ」

 そう言うと宗忠は、馬を返し、周囲を囲まれているのに、無人の野を進むように簡単に囲いを破り、高松城の方角へ馬を走らせた。同時に、宗忠勢は、踵を返し引き上げていく。統率の取れた動きだ。

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