第17話 奇襲

 突然、足早に陣中を進み出した。自らの陣に戻ると寝込んでいる家臣達を起こし始めた。

「みな、起きろ!起きろ!起きて、鎧を着るのだ」

 官兵衛は、嫌な予感がした。これだけ、闇が深いと夜襲をするには絶好の状況だった。三万もの大軍で包囲しているのため、城から攻撃される事は誰も考えていなかった。攻撃する方は、こちらなんだ。そう考えている時こそ危険だ。闇夜に乗じて攻撃すれば、寡兵でも大きな戦果を上げれるだろう。城に篭る武将次第では。

 すっかり、寝ていた家臣達は、起きながら何があったのか?把握できていなかった。まだ、何も起きていないのだが。

「起きろ!起きろ!周囲を警戒しろ」

 こういう場合の官兵衛の勘は、よく当たる。周りの者も、装備を整えながら、集まってきた。ただ、何も起こらない。今回は、官兵衛の勘も外れたのか?しばらく、周囲の闇に目を凝らして変化がないか注意する。少しすれば、闇にも目が慣れてきて、よく見えるようになってきた。

 その時、目線の先で火の手が上がるのが見えた。遠くから喊声も聞こえたような気がする。

「やはり、来たか」

 官兵衛は呟いた。この場合は、自分の勘が外れることを願うのだが、今回も当たったようだ。

「応援に向かうぞ、火の手が上がった方へ進め」

 官兵衛の一隊は、応援に向かいながら途中で寝ている兵士を起こしながら、少しずつ数を増やしていった。複数の場所で、火の手が上がっていた。突然の奇襲に装備もままならない。黒い大きな塊が近づいてくる。騎馬武者の一群だった、馬上から次々と鋭い槍が繰り出され、味方の兵がバタバタと倒れていく。騎馬武者の動きは、止まらない。その時、騎馬武者の大将らしき人物が官兵衛を見つけた。

「そこに居るは、名のある方と見た!守将、清水宗治が弟、難波宗忠と一騎討ちじゃ!」

 馬上から、雷鳴にも似た大音声で官兵衛との一騎討ちを難波宗忠が要求した。周囲の兵から、応えるように槍が宗忠に向けて繰り出される。宗忠は、馬上でありながら体を逸らせて槍をかわし、次の瞬間には槍を突き出していた。味方の兵の体には、貫くように宗忠の槍が突き刺さっていた。

「わしの槍の味は、どうだ」

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