第16話 軍師

「殿、明日は総攻撃は、早朝が一番良いかと」

 秀吉軍の軍師ともいえる黒田官兵衛が総攻撃についての助言をした。黒田家は、赤松の家臣の小寺家の親戚で、重臣でもあったが、信長軍の侵攻で早期に信長軍に加わり、秀吉に自らの姫路城まで預けていた。


 その後の中国路の遠征でも活躍し、軍師とまで言われる地位まで確立していた。軍師という軍役はなく、意味合いとしては参謀の方が近い。王などが遠征などを行う場合に、軍事に関する権限を全て託すのが軍師であり、全ての権限を持つ役職だった。軍の進退についても軍師に権限があり、王命でも従わないこともあった。軍師というのは、それほど強力な権限を持っていた。官兵衛の場合は、あくまでも助言が主であり、実際に命令を下すのは秀吉だった。

「官兵衛か、わしも同じように考えていたぞ」

 秀吉は、豪快に笑いながら、軍師からの助言と同じ考えだったことを喜んでいた。本当に同じことを考えていたか、違っていたのかはわからないが、こう言われて嬉しくない人はいなかった。

「明日は、総攻撃だ。今日は、皆でたらふく食べ、呑もうぞ」

 秀吉の言葉で、また歓声が上がり、兵士たちは喜ぶ。秀吉が早速、運ばれてきた酒をもち、一気に呑み干した。

「お前たちも、呑め呑め」

 自ら近くにいた兵達に酒を注いでいく。官兵衛も、秀吉から酒を注がれて、呑み干す。あちこちで、酒盛りが始まった。今まで、戦続きだったため、久々の酒盛りに大盛り上がりだ。しばらく、宴会は続き夕方に近くなると、そこら中で酔い潰れる兵士がいた。明日は、総攻撃だ。今日くらいは、休息も必要だろう。


 夜も深くなると、秀吉の陣では見張り役の他は、すっかり寝入っていた。その中で、陣中を歩いている人物がいた。右足をひきづるように歩いているので、官兵衛だとわかる。

「今夜は、月も見えない漆黒の闇が広がる」

 空が曇っているため、月明かりもなく真っ暗な夜だった。官兵衛は、静かな夜と静寂に身を任せ、自らも闇に同化するような感覚を覚えた。

「いや、これはもしや」

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