第10話 代理戦争
利三は、書状を読んだ後に、以前の書状とほぼ同じ内容であることに呆れていた。書状には、朝倉家の再興と協力のお願いで、後半は信長に対しての悪評を書いていた。そして、最後には資金の融通の話で終わるのだ。光秀は、朝倉氏の家臣であった事もあるのだから、支援するのは当然だとも言える内容だったが、今は越後に落ち延びているため、色々と物入りなのだろう。
「書状を届けた者に、食事をとらせて、幾らかの資金を渡してやれ」
光秀は、面倒くさそうに言い、光忠に対応を任せた。利三は、書状を光忠に渡した。光忠は、席を立ちその場を離れた。光忠は、光秀の叔父・光久の子で、明智家の重臣でもあった。美濃から越前に逃れた時から一緒に行動しているため、光秀の考えや行動も把握していた。光忠であれば、景中殿の使者の対応も卒なくこなすだろう。
景忠からの書状は、すでに何通目か?覚えていないくらい定期的に送られてくる。織田家中でも、随一とも言える出世をした光秀が世間の評判にならないはずがない。光秀の元には、景忠以外にも昔の知り合いなどから連絡が来るようになった。その度に、光秀は融資したり知人の紹介などを行っていた。
「ところで、元親殿は三好と戦をする用意があるのか?」
光秀は、本来の議題に戻り利三に質問した。
「三好から攻撃されれば、元親殿も戦を避ける事はできないでしょう」
利三としては、三好の方が旧領の奪還と言いながら積極的に領土を広げようとしているとしか思えなかった。三好は、中国で毛利と対陣している秀吉と交流して、支援を受けようとしている。長宗我部は、光秀と交流し四国制覇を続けようとしている。四国で、織田家の内部の権力抗争が代理で行われようとしているようでもあった。どちらが正しいというよりも、どちらが力を持ち、多くの支援者を得ることができるか?この場合では、信長からの支持を得ることが何よりも大事であった。信長は、合理的な思考を持っている。合理的な思考で考えるのであれば、中国の毛利討伐が優先される事案であり、毛利討伐に有利になる三好との関係は良好であることが望ましい。
しかし、あまりにも三好に有利で長宗我部にとって不利な条件であれば、毛利と長宗我部はかつて戦ったことがあっても長宗我部は、毛利と組む可能性も残っていた。四国情勢というのは、微妙なバランスの上で、保たれていた。光秀としては、長宗我部家にも利があるような形で、交渉を進めていた。
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