第9話 戦国の世の血縁とは

 安土から戻った光秀一行は、居城である坂本城で合議中だった。長宗我部への対応で、斉藤利三も参加していた。

「元親殿には、書状にて土佐一国以外は返還するように伝えておりますが、返事はありません」

 斉藤利三は、長宗我部元親の義理の兄とも言え、その関係性から元親との実際の交渉を担当していた。利三の母が石谷氏と再婚し、産まれた娘が長宗我部元親の正室となっていた。


 簡単に言えば、種違いの妹が長宗我部元親に嫁ぎ正室となり親戚となったのだ。父の再婚相手は、明智光継の娘であり、光秀は、光継の孫にあたり利三とは義理の従兄弟とも言える。元親との交渉は、始めの段階ではうまく行っていたが、信長の心情の変化と秀吉の三好との関係改善により四国情勢は不安定になってしまった。


 長宗我部が、信長の指示通りに手を引けば問題は解決するのだろう。しかし、戦国の時代を生き残り土佐一国を平定した長宗我部が簡単に従うはずもなかった。従うと見せて、裏切り。引くと見せて、引かない。戦国の世では、常に謀略と駆け引きが存在する。親子、兄弟ですら相争う時代でもある中で義理の兄とは言え、斉藤利三の交渉が続けられることが、両者の関係性を表しているのではないだろうか。

「利三が土佐に行けば、話はつくのだろうか」

 光秀は、この状況を打開するには、利三を土佐に派遣して直に元親と談判に及ぶしかないとも考えていた。場合によっては、光秀が土佐まで言ってもいいと考えてもいた。しかし、丹波の情勢も、まだまだ安定しているとは言い難い。織田家の筆頭家老ともなった光秀が、のこのこ土佐まで行く事も信長が許すとも考えにくい。昔のように、自分の身一つですら気ままにならない状況にも光秀は苛立ちを覚えていた。


 その時、近習の者が静かに現れ書状を持ってきた。合議の空気を乱さぬように無言のまま書状を光秀に手渡す。光秀は、手渡された書状に目を通した。一通り目を通すと、利三に書状を渡した。

「また、景忠殿からだ。あの方も、困ったものだ」

 光秀は、美濃から離れた後は、越前の朝倉氏に士官して十数年働いていた。その朝倉氏の家系である朝倉景忠は、嫡流ではないが朝倉氏の支流であり、越前にいた時からの顔見知りではあった。ただ、相手は主君筋の流れを汲む人であり、親しい間柄でもなかった。

「また、同じような内容ではないですか」

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