第8話 土佐一条家

 土佐一条家は、京から下向し直接支配し、さらに近隣の国人と連携する事で、地域での勢力を伸ばしていた。二代目・房家は、近隣の勢力と政略結婚などを行いながら大名としての地位を高めていった。四代目・房基は、智勇に優れた人物で支配地を増やして行ったのだが、突然、自ら命を絶った。その子、兼定は七歳で家督を継ぐことになるが、伊予の河野氏との戦に大敗するなどで一条家は、次第に衰えていき、元親とも対立することになる。兼定の当主としての力量に見切りを付けたのか、一条家の家老の合議によって兼定は追放されることになり、土佐一条家は、実質的に消滅した。当主の死亡など嫡子が幼年で、家督を継ぐ家は、衰退していくことが多い。元親は祖父・兼序が二代目・房家に助けられたため、一条家に直接攻撃する事はなかった。守護細川家の撤退、土佐一条家の退廃などにより、長宗我部家は、国人の中でも力を持ち、土佐統一まで成し遂げることができた。元親の父・国親も、幼い時に当主になったが、土佐一条家の助けによって、家を存続させることができた。助けた長宗我部家が、土佐一条家を凌ぐ勢力になるとは、その時は、誰も想像できなかっただろう。

「土佐の次は、四国制覇。道筋が見えてきた時に」

 元親の表情は、悔しさと歯痒さがあいまった苦悩の表情だった。やっと、土佐を統一し自分の思うままに動かせる状態まで来ていた。その時に新たな支配者として、信長が現れた。これまでの相手とは、規模が違いすぎていた。とても、土佐一国の兵力でどうにかなる相手でもなかった。

「そもそも、切り取り次第と約束したではないか」

 元親は、自然と拳を握っていた。このまま、土佐一国で止まるか、出来るだけ領地を広げて、状況によっては信長勢と一戦交えるか。四国は、海に囲まれている。言わば、四国自体が巨大な堀に囲まれた天然の要害のようなものだ。主要な港さえ抑えてしまえば、相手が多勢でも互角以上の戦いができるかも知れない。元親は、自分の武将としての力量を試したい気持ちを感じながら、長宗我部家の将来について考えていた。

「光秀殿が、鍵になるだろう」

 光秀という鍵が、長宗我部家にとって幸運の扉を開く鍵なのか、地獄への道を開く鍵なのだろうか?

 

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