第5話 四国情勢

「長宗我部との交渉は、全て光秀に任していたが、三好が降伏した以上は、我が配下。その三好を攻撃するのは、我が軍勢に攻撃するのも同じ事」

 信長は、光秀の功績としては認めていたのだが、毛利攻めの最中の秀吉が後方から攻め込まれるような事態は避けたかった。万が一でも、毛利と三好が手を組めば秀吉を挟撃し撃破した後は、毛利は播磨などから迫り、三好は海を渡り堺、河内から京に侵攻するだろう。


 武田家を破り、京周辺にもやっと戦の雰囲気が消えかかっているだけに、京周辺が再び戦場になるような事は避けたかった。

「本来であれば、即刻四国へも討伐軍を出すのであるが、光秀に交渉は継続させる。励め!」

 信長としても、四国情勢は気になるところではあるが、現状では光秀の交渉と三好康長に四国攻めへの準備を指示して、長宗我部元親の返事を待っている状態であった。

「お館様のご期待に添えるように、努力いたします」

 光秀は、この場ではそう応える事しか出来なかった。四国統一を目の前にした元親を説き伏せるのは、難しい事だが、出来なければ元親との戦になってしまう。そうなれば、光秀の立場も危ういものになる。

「城へ戻る。あとは、ゆっくりするがいい」

 信長は、そう言い放ち席を立った。見送りをしようとする明智一行を手で制しながら、もう大股で部屋から出て行った。一瞬にして、その場の空気を察して、行動をする信長という人物は秀吉以上に気配りのできる人だったのかも知れない。


 残された明智一行は、唖然としながら用意された御馳走を頂くことにした。

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