第4話 四国と三好
「まずは、皆座れ。御馳走を用意してあるぞ」
信長が用意させたのだろう、見るからに豪華な食事が用意されていた。一行は、席につき信長が先に食事に手をつけるのを待つ。それをわかっているのだろう。信長が先に、食事に箸をつけて食べ始めた。それを合図に一行も食事を始めた。
「お館様、連れ立っておりますのは、秀満と光忠であります。両者とも、親族になります」
光秀は、従者の紹介をした。その言葉を聞いていたのか?聞いていないのか?信長は、手で食事を続けろという感じの手振りをして、自らも食事を続けていた。光秀一行も、信長の食べ方を意識するかのように無言で食べ続ける。今や、右大臣となり天下人にもなった信長だったが、京で貴族との交流を避けているためなのか、昔と変わらない木訥というか素朴な一面が見えた。
「光秀。四国の件だが、元親から返事は来たのか?」
突然の信長からの問いかけに驚きながら、光秀は応えた。
「いまだに返事はきておりません。斉藤利三からも、長宗我部元親には文を送って承諾するように言っております」
中国の毛利と戦っている織田軍は、四国の阿波などに勢力を持っている三好一族を排除するため土佐の長曽我部元親に四国切り取り自由として、四国内での行動を容認した。その際に、光秀は長宗我部元親との交渉役となった。光秀の重臣の斉藤利三は長宗我部元親と親戚関係でもあった。
その後、三好康長が信長に降伏した事で、状況は変化した。四国情勢は変化したのだが、長宗我部元親は、その後も四国統一を目指し、三好康長の勢力へ攻撃を行ったのだ。それに対して信長は、攻めとった地域を三好康長に返還するように朱印状を出して、指示したのだが、長宗我部元親からは返事がなかった。
光秀としては、長宗我部との交渉を行い、うまく織田勢として動かすことに成功しただけに、信長の急な方針変換とも思われる行為には驚いていた。交渉役として、長宗我部からの信用も失い兼ねない事態でもあった。三好康長は、織田家に降伏した後は、秀吉の姉の子を養嗣子として貰い受けていた。三好信吉として三好の養嗣子になった人物こそ、後の豊臣秀次だった。秀吉としても、中国の毛利攻めの際に、後ろから攻撃されることを警戒し、三好を味方に引き入れることに必死だった。その事で、光秀が交渉をしていた長宗我部と敵対している三好に秀吉がつく事で、織田政権とも言える内部での権力抗争と見る事が出来た。
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