難病持ちの大食いさん
少年がお菓子屋さんを見つける少し前の事。
真っ白なスーツに身を包んだ男が、森の中を歩いていました。男はとっても上機嫌。何せ今日は、行きつけのお菓子屋さんを訪ねる日です。
「はてさて、今日はどんな新作ができているのでしょう!」
実はこの男は難病を患い、ほとんどの食べ物にアレルギーを持っているのです。そのため、男はなにも食べることができず、いつもお腹が空かせていました。
そんな時小さなお菓子屋さんを見つけたのです。不思議なことに、そこお菓子は、アレルギーを起こさなかったのです!
そのため男は、ある決まった時期に店を訪れるようになりました。
「新たな行方不明が出ていましたし、そろそろ頃合いでしょう。あぁ、新作が待ち遠しい!」
男は軽い足取りでお菓子屋さんを目指します。しかし……、ドンッ、となにかがぶつかりました。
「おや?」
思わず足を止めましたが、ぶつかった鎧姿の者は既に走り去ったあとでした。
━━ずいぶん慌ててらっしゃる。狩りにでも失敗したのでしょうかねぇ。━━
見ると、ぶつかった肩に血がついています。きっと返り血でしょう。
「どうせ汚れますから構いませんが…あの先は……」
「ぎゃぁあああああああ!!!」
男が歩き出してすぐに、断末魔が森の奥から聞こえてきました。
「あの先には崖があるので気を付けて、と伝えたかったのですがねぇ。」
回りが見えていなかったあの鎧男は、きっと崖から落ちてしまったのでしょう。男はさして気にすることなく、ようやくお菓子屋さんへたどり着きました。
しかし、どうにも様子がおかしい。
「これは…血痕…?」
お菓子屋さんの扉が開けっぱなしとなり、そこから転々と、血の後が続いているのです。不安になり男は急いでお菓子屋さんの中へと入りました。
「あぁ、これは…なんてひどいことを……っ!」
そこには、血まみれに倒れた少女が横たわっていました。
瞳には涙を浮かべ、手にはフォークが握られています。少し離れたところには、お皿がひっくり返ってなにかがつぶれていました。
「可愛そうに……痛かったでしょう。」
男は涙を浮かべながら、フォークを握っている彼女の手をとりました。
「これが最後の新作ですか……あなたの事です、最期まで誰かにお菓子を食べさせたかったのでしょう?」
それが本当はお菓子じゃなかったとしても。
「大丈夫ですよ、貴女の新作は私が食べますから。自信作なのに食べてもらえないなんて悲しいですから。」
いつもいつも、嬉しそうにお菓子を自慢していた少女を思いだし、男はフォークに刺さっていた目玉を一口で食べました。
━━あぁ、これです。この美食を味わいに来たと言うのに……━━
男はボロボロと泣きました。
彼女にどれだけ救われたか、ちゃんとお礼も言えていないと言うのに。
「貴女がちゃんと天国に行けるように、お見送りさせてくださいね?」
男は血なまぐさい厨房へと足を運びました
。そこにはお菓子の“元”になった物が放置され、ハエやウジ虫がたかっています。
男は包丁を手に、それらを解体していきます。
明るくて元気な少女ですから、たくさん飾りつけをしましょう。
大腸に髪の毛を巻き付けて、耳をぶら下げて窓を飾ろう。
花壇が寂しいな。手の花を咲かそう。爪をピンクに塗って、桃色の花にしよう。
━━そうだ! 彼女が死後に幸せになれるよう、おまじないをしよう!━━
男は彼女の血を使って、扉に魔方陣を描き始めました。これは彼が崇拝する悪魔教にて、魂を食わぬようお願いをする陣です。
死後の世界で幸せになりますように。
男はそう心から願いながら、少女を逆さにつりました。
そのせいで少女が「魔女の生け贄」と世間に勘違いされるとは知らずに……。
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