泣き虫な少年

 新聞がばらまかれる前日の事。


 朱いベレー帽を被った少年が、森の中を人を探しに震えながら歩いていました。


 彼はとっても泣き虫で、いつも一人では行動できません。だから今日も、相棒のマックス……グレーの小型犬を連れ歩いていました 。


「今日こそは…見つけてやるんだ……。」


 少年は怯えながらも、そんな森を進みます。少年は、家族を探していました。


 少年の姉が、1ヶ月ほど前に失踪してしまったのです。街では行方不明者が後を絶たず、彼の姉は最初の行方不明者なのです。


「マックス、姉ちゃんの臭いは確かにこの森に続いてるんだよな?」


「ワン!」


 少年は血眼になって姉を探していました。姉の写真を片手に街中を駆け回り、毎日探しましたが、姉は見つかりません。


 途方に暮れていたとき、マックスが姉が身に付けていた鞄を森で見つけたのです。


 ━━きっと姉ちゃんは事件に巻き込まれたに違いない!━━


 姉の危機に黙っていられなかった少年は、小さな小さな勇気を振り絞り、森へと足を踏み入れたのでした。


「どうしよう……もうすぐ日が暮れちゃうよ。」


 いくら普通の森と言えど、夜になれば危険動物たちが目を覚ましてしまいます。


 そうなってしまっては、姉を探すどころではなくなります。夕暮れ時の朱い森で少年は俯きました。


 暗く成り行く世界で、少年の気持ちもだんだん沈んでいきました。とうとう我慢できなくて、ぽろぽろと涙をこぼれ落ちました。


「僕が泣いたって……仕方な、いのに。」


 ごしごしと目を擦り、少年は前を向きました。


「今日はここまでにしようマックス……明日また探しに……」


「ワンワンッ!!」


 帰ろうとした途端、マックスが吠え出して、駆け出していきました。


「マックス!? まってよ!!」


 突然の事に置いていかれた少年は、慌てて追いかけます。


 ようやく追い付いた頃には、マックスはしきりに吠えたてていました。


「いったい……どう、したんだ……よ……っ」


 いきなり走ったせいで、少年は激しく息切れしながら顔をあげました。目の前には森を切り開いたような場所に、小さな家がありました。


 真っ赤な屋根がトレードマークのお菓子屋さん。


 窓には飾りつけのように人の臓物が吊るされています。髪の毛らしきものがぐるぐる巻き付けられ、耳が括りつけられていました。


 花壇には切断された手が植えられています。どの指もピンクのマニキュアが塗られ、綺麗に花を咲かせていました。


 そして玄関には……無数の刺し傷でボロボロになり、真っ赤なエプロンを身につけた少女が逆さ十字に吊るされているではありませんか。


「うわぁあああああ!!!!」


 世にもおぞましい光景に、少年は悲鳴をあげ逃げ出しました。


 あまりに無惨に吊るされた少女が、自分の姉だと気づかぬまま。それが姉と気づいたのは、新聞がばらまかれた頃でした。

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