法螺吹きの記者
小さな街は、今日も活気に溢れています。
市場では買い物をする人たちで賑わい、たくさんの人の声が行き交っていましたが、市場の空に、たくさんの新聞がばらまかれました。
「号外、号外だよ!森で魔女の生け贄が見つかったって!」
若い新聞記者が新聞をこれでもかと、空に投げています。どうやら、森で死体が見つかったらしいのです。
市場にいた人たちが、新聞を手に取ります。
「逆さ十字に吊るすなんて……まだ小さな子なのに」
「最近行方不明者も多いじゃない、魔女の仕業かしら」
噂好きの人たちが、次々に憶測を口にします。そんな様子を、新聞社の窓から見下ろす男がいました。
古びた茶色いオーバーオールを身に着けた彼は、とっても不服そうです。
「くそ! 何で俺の記事は取り扱ってもらえないんだ!」
灰皿ががたりと震えるほど、机を強く叩いています。そんな様子を、彼の同僚が呆れたように眺めていました。
「そりゃ、あんな嘘だらけの記事なんて出せないだろ。」
「どこが嘘だって言うんだ! 僕はあの逆さ十字の少女は魔女と関係がないといってるだけだ!」
彼は怒鳴りながら、自分の原稿を同僚に押し付けました。
「どう見たって関係大有りだろ? 逆さ十字っていけば、魔女が信仰しているものだ。」
同僚は肩をすくめて、彼の原稿を押し返しました。新聞は、真実より話題のあるネタに飛び付いてしまうのです。
「逆に聞くが、どうして魔女と関係ないって言い切れる?」
逆さに吊られた死体に、おぞましい店内の光景。オカルトじみた何かを連想させるには十分すぎる惨状でした。
問われて彼も、グッと黙ってしまいます
「そ、それは……。」
「また勘、とかいうんだろ? 前はなんだっけ……あぁ、行方不明者は誰かに食べられているかも、なんて原稿をあげてたな。」
彼は新聞記者ではありますが、皆からは「法螺吹き記者」とバカにされていました。
いつも、突拍子のない事をさも事実の様に記事にしてしまうからです。そのせいで、今では誰も、彼を信じてくれません。
「お前のそれ、作り話にしたら良くできてるから、フィクション作家にでもなったらどうだ?」
そう嘲笑いながら、同僚は去っていきました。一人残された彼は、誰にも言えない怒りをぶつけるように、乱暴に座りました。
「どうして……誰も信じてくれないんだよ!」
嘘なんて言ってないのに。
けれど、誰も彼の言葉を聞いてはいませんでした。
ただ静かに、空から新聞が舞い落ちるばかり。
━○月○日 号外新聞━
【森の中で魔女の生け贄?】
『郊外の森にて少女の惨殺死体が逆さ十字に吊るされて発見されました。建物内にも数多くの死体が発見されたことや、逆さ十字と魔方陣らしきものが描かれていたことも含め、魔女との関わりがあるのではないか、と魔女狩り協会から正式に調査依頼があったことが、関係者の取材で判明いたしました。』
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