第9話 「第一次奪取戦争」 その7



「じゃ四葉、待ってるから」


「っ///」


 夕食を難なく食べ終わり、ようやく本番のケーキの時間だった。美森さんがケーキを8等分ほどに切っている間、僕と四葉で皿洗いをしていた。


「——なんで赤くなる?」


 つい数時間前に彼女は二人だけで勉強会をしたいと言ってきたのでその約束をしようとしていたのだが、問うと未だに頬を赤らめる。そこまで恥ずかしいことを気づかせた覚えはないのだがどうやら四葉にとってはすごく恥ずかしいらしい。


「……だって、変なこと……言っちゃいましたし」


「別にそんなこと言ってないだろう、毎日できるじゃねーかって言っただけじゃん」


「そ、そうだけど……なんか」


「なんともないって、それよりもうすぐケーキだからどうするのか決めようぜ」


「う、うん」


 一枚一枚、僕らは丁寧に皿を洗っていく。視線を左にもっていくと、その隣では美森さんがケーキを切っており、ちょうどお皿分けている最中だった。


「んで、僕は何時でもいいけど四葉はなんかあるか?」


「別に、いつでも大丈夫です……」


「そうか、というかもう9時だからな、もしやるとするなら10時とか?」


「う、うん……だけどお風呂とかは入ってないですし」


「あ~~確かに、すっかり忘れてたわ」


「お風呂は入らないと駄目ですよ」


 横目で見ると四葉の頬を先ほどよりも赤くなっていた。

 どうやらお風呂のことを言うのが恥ずかしいらしい。


 ん、お? 良いこと思いついたぞ!!


 何となく思案していると面白いことに気が付いた僕。そこで揶揄おうと決心した意地悪な僕はすぐさま実行に移した。


「四葉って結構長い時間はいるもんなぁ……あ、そうだ!」


「ん?」


「せっかくなら久しぶりに一緒にお風呂入るか!」


「っえ」


 近くにいる美森さんに聞こえないように四葉の耳元で囁くと彼女の顔は赤から真っ赤にカラーチェンジした。


「い、いい、いっしょ⁉」


「うん、何? 嫌か?」


「え、いや、んと、そんな……」


 動揺が激しい。

 おどおどと目が泳いでいる四葉も凄く可愛かった。


「まあ昔もよく入ってたし、今更だろ、な?」


「あ、うん、そうだ、えkど」


 さも当たり前かのように言ってみると今度は耳まで赤くなっていた。手に持った皿をまったく上手く洗えずに、常に一緒のところを何往復もごしごしと擦っていた。


「おい、皿しっかり洗って」


「や、でも、ゆずとが……」


「人のせいにしない~~」


「うぅ」


 頬を真っ赤にして、指先まで震える四葉を見るとさすがに可哀想に思えたのでからかうのはここまでにしよう。まあ、さすが好意を寄せていても裸を見せ合うのはハードルが流石に高い。小学生の僕らなら躊躇はなかっただろうが、生憎今の僕たちは高校生なのだ。揶揄っている僕も少し恥ずかしいものがある。



 ——しかし、彼女の反応は予想外だった——。



「じゃ、終わったら————、一緒に入りましょ、ぅ」





「——え?」


 四葉の返事に僕は驚いた。ついうっかり「え?」と返してしまった。


「え……?」


「あ、いや」


 どうやら四葉は本気だったらしい。しかしここで僕が引いてしまうと逆に僕が揶揄われてしまう可能性もある……だが、いっぱしの高校生、いくら幼馴染で義兄弟だとしてもしてはいけない気がする……。


 何よりも四葉が前向きな返事をくれるとは思いもしてなかった。少し黙って考えていると、頬を赤らめていた四葉がニヤリと笑って視線を向ける。


「な、なんだ、よ?」


「いや、ゆずとが顔赤くしてるから……」


「し、してねぇし!」


「してますよ~~、四葉からは十分そう見えますっ」


「それなら四葉だってなぁ」


「四葉はいいんです、それよりなんですかぁ、恥ずかしいんですかぁぁ?」


「うっ」


「まあ、四葉はどっちでもいいですよ? ゆずとの好きなほうで……でも、先に誘ったのはそっちなんですから、ね?」


 その語尾の付け方は明らかに宣戦布告のそれだった。


「わ、わかったよ!」


 と、まあ。

 現役高校二年生ながら、義妹兼幼馴染との入浴が決まったのだった。

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