第5話 「部活という名の建前のただの集いに僕は赴く」 その2


「ゆずと、最低」

「……面目ない」


 すんなりと謝ってしまう僕自身。 


 これは平和が好きな僕の癖ではあるが、こんな癖がもたらすのはすごく悪いエンドだと知っている。そこで、もう一度考えてみる。隣で腕を組みながら偉そうにしている彼女を横目に、その見下す瞳を見ていると何かに気づいてしまった。


 ——いや、なんでだ、大体僕が被害を被ったあのへんな討論大会が始まりではなかったか。


「——って、僕が悪いのか!」

「ひゃにゅっ⁉」


 階段を降りる最中、僕の左手チョップによって、右肩も震わした四葉は子猫のようだった。危うく転げ落ちそうなところを僕が右手で何とか抑えると、彼女の頬が赤くなった気がする。


「はぁ、大丈夫か?」

「……う、うん」


 コクっと頷く四葉、その姿はまるで小動物だった。パンダが笹を食べるような感覚で、リスがくるみを齧る様子。その反面的な動きにどこか不思議に好感が持ててしまうのは彼女が彼女足る故なのだろう。


「まあ、で、なんだっけ?」


 しかし、黙り込む四葉。


「まず、四葉と前沢が僕をあんな風に扱わなければこうはなっていないからな」

「うう!」

「うう! っじゃねえよ、こちとらいろいろと」

「——いや?」

「いやいやいや、そういうわけじゃない!」


 ——その瞬間、聞き慣れたゾわりとする声が耳に入る。廊下に響き渡る不気味な声、今まで何度も聞いたことのある怖い声だ。


 男顔負けのハスキーな声色に、綺麗で整った顔、いかにもなボディラインをうちの高校の制服が包み隠した巨乳の先輩であり文芸部部長、福原詩音が怒涛の勢いで迫っていた。


「よぉぉぉぉぉぉぉおおつぅぅぅううううぅうぅぅうばああああああああああ‼‼」


「ひ、ひ、ひゃあああ‼‼」

「う、う、うわあああああ‼‼」


 不意に始まった、再リアル鬼ごっこ。

 始まりは不意なのに、終わりはなかなか訪れない。

 恋愛も、友情も、その関係何もかもとは反対な事象がここには存在していた。

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