第5話 「部活という名の建前のただの集いに僕は赴く」

「ごめんなさい……」

「なに?」

「ごめんなさい……」

「はい?」

「……っ! この度は! 誠に、申し訳ございませんでしたァっ‼‼」

「っち……」


 今まさに教室で土下座する男、前沢誠也。


 彼が無様な格好を見せる羽目になった理由は十数時間前のこと。僕の家(四葉の部屋)にて、謎の勝負が始まったのが原因である。


 勝負内容と言えば、世にもおかしな奇妙な話で出てきそうな頭のおかしい内容。それは、『どちらが柚人にふさわしいか』であった。逆に嬉しいだろ、と言われてしまいがちなこの内容。


 そう考えた者は恐らく、いや恐らくじゃなくても頭がイカレている。こんな討論を目の前でやられてしまえば頭に残るのは一定量の恥と大量の恐怖である。これが、四葉ならまだ嬉しかっただけかもしれないが、この変態的社交性の持ち主、前沢誠也からの称賛こうげきは心にもたらす破壊ダメージが凄まじかった。


 普通に考えれば四葉が勝つこと同然のこの討論も、引き分けの結果で終わるという非常に怖い結末とトラウマを残してしまったのである。まったく、一体数日で僕の何が分かったのだろうか。そんな疑問に引けを劣らず彼の戦闘力は高く、四葉も倒すのに苦労しているように見えた。




 内容なんて言いたくないから割愛しようと思う。


 もう思い出させるな、ばか野郎。






 ——んで、今。


 彼は堂々と教室の後ろで土下座を試みているのだ。


 隣に座る四葉自身、この姿を見て顔を赤くしている。おそらく自分がした子に若干の責任を感じているのだろう。もしかしたら、これを自分もやる羽目に? なんて考えている気がしなくもないが、生憎僕は悪魔ではない。

 

「はあ、まったく」


「すまん」


「ああ、いいよ、分かったよ。まあお前が凄いへんたいって言うのは分かったからさ、四葉と仲良くやってくれ」


「おお……」


 と、僕が何気なく呟いた瞬間で急に教室がざわつき始める。

 


 数秒後、前沢と四葉のカップル誕生という大きな誤解を生んだことはまた別の話。




 注:誤解を解くのに実に数日かかりました。

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