第176話:異世界賢者は怒られる①
魔剣と聖剣の『自動修復』に気を取られ、ぼうっとしていたその時。
「楽しかったぜ」
勝者の余裕なのか、愉快そうに背中を叩いてくるアルフレッド。
「ユーキはどうだ?」
俺も、結果は負けてしまったとはいえ久しぶりに熱くなれた時間だった。
一人で部屋に篭ってゲームをしていた時も楽しかったが、これはこれで違う良さがあったように感じる。
「俺もだよ」
「そりゃ良かった」
バシッとまた背中を叩くアルフレッド。
ふとアレリアたちに目をやると、アルフレッドの仲間の四人組と談笑していた。どんな話をしているのか俺には知る由もないが、楽しそうではある。
「うーむ、ガールズトークに水を刺すのも悪いな。ユーキ、こっちは男同士で楽しもうじゃねえか」
腐女子が聞いたら勘違いを生みそうなセリフを吐くアルフレッド。
「そうだな」
俺とアルフレッドは横並びで歩きながらジュースを飲む。
「うえーい、乾杯!」
「うえーい……」
この陽キャ特有のノリだけはついていけそうにないが、とりあえず形だけは合わせておく。
「そういや、ユーキ。連れとは付き合ってるのか?」
連れ……アレリアたち四人のことか。
おそらく恋愛的な交際をしているかどうかという質問だろう。
「まあな。アリスだけは違うが」
「うひょー、やることやってんだなてめー」
ニヤニヤしながら肘を当ててくるアルフレッド。
「勘違いするな。三人とは遊びで付き合ってるわけじゃない。誰か一人とは結婚するって約束をしてるしな」
そう、俺は『遊び人』ではなく『賢者』なのである。
「ん、じゃあ俺と一緒か。俺もあの四人とは婚約してるからな。俺もちゃんと将来は結婚するつもりだぜ」
誰が同じだ! ……と言いかけて俺は口を閉じた。
確かに言われてみて初めてこの典型的な陽キャと似たようなことをやっていることに気づいた。
相手から迫られる形だとはいえ、今の状況はかなり似ている。
「ん、そういや気になったんだが、誰か一人とは結婚するつもり……ってのはどういうことだ?」
「言葉のままだよ。アレリア、アイナ、ミーシャからは結婚を求められてるけど、結婚は一人とだけしようと思ってるんだ」
「え、なんで? 酷くね?」
ドン引きしたような目で俺を見るアルフレッド。
重婚が認められている異世界だとこういう反応になるのか。まあ、アレリアの父ユリウスさん、母リリスさんからも重婚を勧められたくらいだしな。
「俺の故郷では一夫一婦制だったんだよ。だから、重婚には違和感がある」
「ふーむ、宗教上のアレか?」
「いや、そういうわけではないが……」
「じゃあ何か別に譲れない理由があるってことか?」
そう詰められると、答えに困る。
この世界では重婚が認められており、俺にとっても譲れない理由があるわけではない。ただ、常識の違いによる違和感を覚えるだけ。
「その顔はないって感じだな」
「……ああ」
「なるほど、事情はわかった」
アルフレッドは五秒ほど何かを考える仕草をした。
「ユーキ、ちょっとこっち向け」
「ん?」
言われた通り、アルフレッドの方を向き、目を合わせる。
すると——
パアアアアアアアンンンンッッッッ!!
「馬鹿野郎がっ!」
思いっきりビンタされてしまった。頬がヒリヒリするが、俺の頭の中は痛み以上に驚きが勝っていた。
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