第174話:異世界賢者は勝負する②
「よし、じゃあ早速始めよう。サーブ権はそっちでスタートだ」
「ん、いいのか?」
先にサーブ権をもらえる方が有利なため、普通は公平にコイントスで決めることになっている。
「海が初めてってことは、ビーチバレーも初めてだろ? 普通のバレーとビーチバレーは違う。俺はなるべくフェアにやりたいんだ」
キラっと歯を光らせるアルフレッド。
「きゃ〜〜〜!」
「アルフレッド様素敵!」
「かっこいいです〜〜!」
「男らしくてしゅき♡」
はあ……そりゃまあ結構なことで。
「ふっ、確かに俺たちはビーチバレー初心者だが……強いぞ? 有利な条件を提示されて断る理由もないけどな」
スポーツは技術が高い方が有利なのは事実。だが、俺たちには冒険者として鍛えた圧倒的な身体能力がある。
いくら神がかった技術があろうとも、身体能力に大人と子供くらいの差があれば勝負にならない。非情な現実だが、そういうものなのだ。
俺もスポーツマンシップに従い、アルフレッドたちのステータスを覗くようなことはしない。だが、それでも圧倒的に能力差があることだけはわかる。
「アルフレッド様、強化魔法を付与しますね」
「うむ、頼んだ」
アルフレッドの仲間の一人が仲間たちに次々に付与魔法をかけていく。
「魔法を使うのは良いのか?」
ドーピングのようなものではないのか? と思い、アルフレッドに尋ねた。
「使えるものはなんでも使い全力を出し切る。スポーツの常識だろ? 仲間の配置、限られた魔力量のなかでどの魔法を使うか……全て戦略のうちだ」
何が悪いんだ? とでも言いたげにまったく悪気がなさそうだった。
なるほど、異世界ではこれが常識なのか。
確かに魔法が当たり前にある世界なら、現代日本とは違った形で競技が発展するのも考えてみれば当然である。
「そうだな、つまらないことを聞いた。ミーシャ、強化魔法を頼む」
「任せて」
俺たちもミーシャに強化魔法を付与してもらい、俺が用意した各種ポーションを飲むことで万全の状態を整えたのだった。
「よし……」
お互いに全ての準備が完了。
俺は、ボールを持ってサーブ位置についた。
ちなみに、スイとアースはコートの外で審判をしてくれている。
『神の加護』を使い、さらに身体能力を引き上げる。
ボールを頭上にふわっと投げ、勢いよくジャンプ。そして、一切の容赦無く全力のサーブを叩き込む——!
ドオオオオオオンンンッッ!!
ボールからとは思えない音を出して相手コートへ飛んでいく。
「なっ、速すぎる……!」
目を見開き、同様するアルフレッド。
これは勝った——と思ったが、俺が繰り出したボールは空気との摩擦で急速に速度を落としてしまう。
ビーチバレー用のボールは空気圧が低く作られている。そのため、俺が想定するより球速が出ないようだった。
「おりゃああああっ!」
アルフレッドは正確に落下位置を見破り、地面に頭から突っ込む。ボールが地面に当たるギリギリでレシーブに成功。
そこからは、アルフレッドの仲間の一人が順当にトスでボールを打ち上げ、三人目によるスパイク。
こちらコートにボールが返されることになった。
「ユーキのサーブを打ち返すなんて……敵ながら天晴れです。でも……」
アレリアは不安定な地面をものともしない脚力で高くジャンプ。
飛んできたボールを華麗に打ち返し、ブロックを成功させた。
ボールは打ち返されることなく相手コートをバウンドし、転がっていく。
「す、すごいな……アレリア」
「ふふっ。気持ちがいいですね!」
正直サーブを打ち返された時点でこの一点は諦めていたが、想像以上の瞬発力・判断力だった。
泳ぎのセンスはなかったが、よく考えればセンスだけでそこそこの剣技を身につけていたのだ。地上では初めてのことでも対応できる要領の良さがあるのだろう。
「うへー、やられたぜ」
頭に被った砂を落としながら呟くアルフレッド。
「だが、このラリーで大体わかった。身体能力の高さはとんでもねえが、技術に関してはまだまだ。どこにボールが落ちてくるかわかれば、いくらでも対応できる。ブロックした嬢ちゃんはなかなかのセンスだが……そこに落とさなきゃいいってわけだ」
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