第172話:異世界賢者は陽キャに絡まれる

 ◇


 水着の調達を終えた俺たちは、早速海へ。


 リーシェル公国の中でも一番水質が良く、白い砂浜が綺麗とのことで有名なビーチへやってきた。


 俺たちの他にもビーチにはそこそこの人がおり、なかなか賑わっている。


 休憩用のテントを張って準備完了だ。こんなこともあろうかと予め王国で用意しておいたものである。


「お待たせしました〜!」


 テントの中で着替えたアレリアたち四人が水着姿で出てきた。


 アレリアは白、アイナは黒、ミーシャは赤、アリスはピンクのビキニ。みんなよく似合っている。


 思わず目で追ってしまいそうになるが、ジロジロ見ないように注意しないとな……。いや、待てよ。よく考えればアリス以外は実質婚約者みたいなものだし見ても良いのか……?


「じゃあ、まずは泳ぎましょう!」


 キラキラとした瞳のアレリア。


「待て。まだ泳ぐのは早いぞ」


「……?」


 アレリアの他の三人も俺が止めた理由がわからないという反応。


 海水浴ができない地域の出身だからなのか、異世界にはそのような常識がないからなのかはわからないが、素で知らない様子。


 初めての海水浴ということでテンションが上がるのは仕方ないが、水場には危険が潜んでいる。ここは注意しておかないとな。


「準備体操なしで泳ぐと溺れる危険がある。しっかり柔軟しておこう」


「そうなのですね! わかりました!」


 四人に準備体操のやり方を教えつつ、俺自身もしっかり伸ばしておく。


「んん……結構難しいですね」


「そうね。紐が千切れない程度に加減しつつしっかり伸ばさないと……」


「もうちょっと大きい水着の方が良かったかな?」


「お店で一番大きいのにしたのに……」


 みんな揃って胸がかなり大きいので、腕を伸ばした際にビキニの紐がちぎれそうになってしまっている。


 かといって裸にさせるわけにはいかないし……ううむ、難しい問題だ。


 水着よ、頑張れとしか言えない。


 いや、まあ水着さん負けてくれても……な、何を考えているんだ俺は。そういう不純な目で見ないようにしないとな、うん。


 そんな準備運動の途中、俺の後ろで人影がピタリと足を止めた。


「おお、ちゃんとやってるねえ。感心感心」


 誰だ? と思いながら後ろを振り返る。


 声の正体は、赤髪ピアスのチャラ男。後ろには、四人の女性を連れている。偶然だとは思うが、四人の女性は揃って胸が小さい。もちろん、五人とも初めて見る顔である。


 俺の心の声が顔に出ていたのだろう。チャラ男は自己紹介を始めた。


「おっと、急に話しかけて悪かったな。俺はこのビーチの帝王、アルフレッドだ。準備運動なしで海に入ろうとする不届きものに注意して回ってるんだぜ」


「きゃーっ! アルフレッド様、自己紹介がかっこいい……っ!」


「うんうん、準備体操大事だもんね☆」


「咎めるだけじゃなくて褒めることもできるアルフレッド様……素敵です!」


「ほんと顔だけじゃなくて内面も良くてすごい! そんなアルフレッド様がしゅき♡」


 うわあ……。


 これがいわゆる陽キャ集団ってやつか?


 なんか変なやつらに絡まれたなぁ……これどうすりゃいいんだ?


 アルフレッドはまあ……お節介なだけで悪い奴ではなさそうだが、女性陣の反応がキツすぎる……。


「こらこら、俺がかっこよくて素敵なのは確定的に明らかだが……いくら事実でも会話を遮るのは良くないぞ」


「はーい」


「ごめんなさーい」


「反省してまーす」


「気をつけまーす」


 前言撤回。こいつもかなりキツイな。


 俺が陰キャだからそう思うのかもしれないが。


「俺の婚約者たちが騒がしくさせてすまないな。お前、名前は?」


 婚約者!? 四人全員ってことだよな……?


 色々聞きたいことはあるが、とりあえず質問には答えておこう。


「……ユーキだ」


 名前を答えると、アルフレッドはアレリアたちに目を移した。


「そっちの四人はユーキの連れか?」


「ああ、そうだが?」


「おおっ、人数ぴったりじゃねーか! ちょうどいい。一緒に遊ぼうぜ」


 えええええ……というのが内心の気持ちだった。


 なんとなくというか、確実にこいつらとは仲良くなれない気がするので断りたかったのだが——


「いいですね! お友達が増えるのは良いことです!」


「そうね。こういうのもたまには」


「へー、みんな乗り気なら私もかな?」


「……」


 なんか、アレリアたちが乗り気なので断りづらくなってしまった。

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