第169話:異世界賢者は驚く
広い王宮の中を歩き、客間へ。
役人が扉を開いてくれたので、俺たち四人は促されるままに部屋に入った。
部屋の中は白基調で清潔感があり、装飾が凝られた高そうな家具が配置されている。
「やあやあ、よく来てくれたね。久しぶり」
入室するなり、声をかけて来たのは国王グラノール……ではない。
てっきりグラノール一人だと思っていたのだが、とんだサプライズだった。
部屋の中には二人。
グラノールはソファーに座っている。
俺たちに話しかけてきたのは、趣味の悪い黄金の鎧に身を包んだ金髪の若い男。
「……久しぶりだな。ファブリス」
俺が名前を呼ぶと、嬉しそうにニヤニヤしていた。
「こんなところで何をしてるんだ? まさか暴力で国王を脅して……」
勇者は強力な魔道具で力を縛られ、国から与えられた住まいで厳重に管理されているはず。許可がなければ外には出られない決まりになっていると聞いてたが……?
「おいおい、勘違いするなよ。そんな野蛮なことしてねえよ」
ファブリスは笑顔を崩さす弁解する。
「俺は心を入れ替えたんだ。王国にいた頃の俺はどうかしてたよ。勇者って立場を笠に着て調子に乗り、保身に走り、研鑽を怠っていた。お前がこの国に送ってくれたおかげで、冷静になって気付けたんだ」
き、気持ち悪すぎる……。
こいつ、本当にファブリスか? 中身入れ替わってるんじゃないのか?
これを本心で言っているのだとしたら、普通より善良なただの若い金髪のマイルドヤンキー風お兄さんじゃないか。
勇者武器である黄金の剣を持っているということは、少なくとも替え玉というわけではなさそうだが……。
だが、人はそう簡単には変わらない。
俺は、言葉でいくら取り繕われようとも安易と信じられなかった。
「ま、まあ急に反省したって言っても信じないよな。俺が逆の立場でもそうだ。ユーキがはるばる来たのは、俺の素行確認だろ? 気が済むまで見てくれればいい」
「ああ、きっちり見させてもらうよ」
ファブリスのこの変わりようは絶対におかしい。
必ず化けの皮を剥いでやる。
「ファブリス君は本当に反省したようだよ。根はいい奴なんじゃろうなあ。今日も王宮の掃除に来てくれたんじゃよ。フォッフォッフォッ」
能天気なことを宣うグラノール王。
齢八十歳の白髪、白髭の爺さん。これまで人を疑うということをしてこなかったのだろうか。それとも、ファブリスと組んで何か企んでいるのか?
今のところは、どちらか分からないな。俺の直感的にはグラノール王はシロ。単に無能な気がするが……根拠はない。要観察といったところか。
「グラノールの爺さん、ファブリスのことで何か気になることがあったらすぐに教えてくれ」
「心配は無用だと思うのじゃがのう?」
だといいんだがな。
と思いつつも、一応は口に出さずに胸中にしまっておく。
「失礼したな」
俺は来て早々に王宮を後にしたのだった。
「秒速ご挨拶だったわね」
アイナが呆れ顔でそんなことを言ってくる。
「まあ、形だけのものだしな。それに、ちょっと頭を整理したかった」
ファブリスが王宮の中にいたこともそうだが、あの変貌ぶりにはかなり混乱させられた。
「じゃあ、休憩に早速海に行きましょう!」
アレリアが呑気にそんなことを言ってきた。まあ、こんな遠くの南国の島にまで来たんだからこの反応になるのも当然か。
「そうだな。一旦遊びに行こう」
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