第168話:異世界賢者はすんなり受け入れられる
「スイ、ご苦労だった」
「もったいないお言葉です」
スイがいつもの小型サイズに戻り、定位置である俺の肩の上へ。
俺たちは揃って門番のもとへ向かった。
門番は二人。奥にも人がいるようには見えない。
厳重な警備というわけではないが、島国のそれも内陸部分となればこのくらいの人員で十分なのだろう。
「通行許可証を見せてもらおう」
門番に言われ、俺は事前にポケットに入れていた手紙を取り出す。
ちなみに、わざわざ不便なポケットに入れておいたのは、アイテムスロットから取り出すとまた驚かれて余計な警戒をされてしまう可能性があるかもしれないという懸念からである。
「こ、これは……い、いやでも早すぎる……!」
「どうした?」
「これを見てくれ」
「なっ……オズワルド王国から客人がいらっしゃるとは聞いていたが、こんなに早くだと……!?」
どうやら、早く到着したせいでかなり驚かれてしまっているようだった。
まあ、無理もない。普通は片道十日ほどかかる距離。王国側から向かわせた使者が戻り、俺たちが出発して到着するまで最短でも二十日はかかるのだ。
それなのに二日で到着したとなれば簡単には信じられないだろう。
「使者を通じて早めにつくと連絡をしていたと思うんだが」
二日とは書いていなかったものの、訪問の許可を得られてからは早く着くとレグルスが手紙に記してくれていた。
「確かにそのように聞いてはいるが、このスピードは異次元すぎる!」
「ま、まあマツサキ・ユーキ殿の伝説が本当だとしたら……これも不思議なことではないのかもしれんな……」
「うむ、そうだな」
意外にもすんなり受け入れられてしまった。
海を隔てたリーシェル公国でも俺の噂は広まっていたようだ。尾ひれがついていないか少し気になるところだが、話が早いのは助かる。こりゃ、過去の俺に感謝だな。
「無礼を失礼しました。ようこそおいでくださいました」
二人の門番が俺たちに頭を下げた。
「どうぞ、こちらへ。ご案内します」
門番のうちの一人が行政区の中を案内してくれると申し出てくれた。初めての土地でガイドがつくのはありがたいが……良いのか?
「門番が一人になのは大丈夫なのか?」
「ええ、リーシェル公国は全土にわたって平和そのものですから」
「そうか。ならいいんだが」
リオン村でのヘルヘイムの一件からどんな状況かと気になっていたが、ひとまず治安に関しては今のところ問題ないようだ。
行政区の中へ。
ちらほらと人が歩いているが、数は少ない。
リーシェル広告全体が賑わっていないというわけではない。行政区は文字通り王宮を含めた行政機関の建物がズラリと並ぶ区画。そもそも、あまり国民がラフに歩くような場所ではないのだ。
最優先で行政区に向かったのは、国王グラノールへ挨拶に伺うためだ。行政区の中にファブリスの住まいもあるので、ついでに寄ることとしよう。
「オズワルド王国からの客人を連れてきた」
「え、もういらっしゃったのか!?」
ドーム式の王宮の前。門番が役人に繋いでくれた。
「少々お待ちください」
慌てた様子で役人は王宮の中に入っていく。
反対に、案内の役目を終えた門番は持ち場へ戻って行ったのだった。
「急にお邪魔しちゃって大変そうですね」
アレリアがボソッと呟く。
「そうだな」
俺は涼しい顔で流した。
……というのも、急に押しかける形にしたのには二つの理由がある。
一つ目は、カタンの一件を重く見てなるべく早期の調査が必要だったため。
二つ目は、リーシェル公国自体の監視が必要だと考えたため。
なんだかんだで、ファブリスは勇者パーティの中では一番マシな戦闘力を持っていた。小国ゆえに資源が乏しいリーシェル公国がファブリスを利用して何か良からぬことを考える——ということも考えられる。
もちろん他国にも言えることだが、とりわけ注意しておくべきと考えた。
二日で全ての証拠を完璧に隠滅することはできないはずだ。踏み込んだ調査の権限はないが、不審な点が見つかれば手がかりにはなる。
「お待たせしました。どうぞ、お入りください」
十分ほどして俺たちは王宮の中に招かれた。
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