第167話:異世界賢者は到着する
翌日の昼過ぎ。
今はカインとの別れの挨拶を済ませ、スイの背中に乗ってリーシェル公国への移動中である。
今日はカンカンの日差しに空からも海からも照り付けられており、めちゃくちゃ暑い。勘弁してくれと言いたいくらいには暑かった。
ちなみに余談だが、カインには俺が王国の貴族であることを伝えておいた。そもそも別に隠す必要はなかったのだが、このタイミングになってしまった。
かなり驚かれたと同時に噂のマツサキ・ユーキならあの強さも納得できると言ってくれていた。どうやら、噂だけは王国を離れてこんなに遠くの地にも広まっていたらしい。
「アリス、昨日のことで気になってることがあるんだが」
「なに?」
「どうしてアリスだけ魔人の『撹乱』が効いてなかったんだ?」
昨日は聞くタイミングを逃してしまったが、ずっと気になっていた。もしまた同じスキルを持つ敵と対峙することになったら……と考えると、何も対策しないわけにもいかない。
アリスだけに効かなかった理由が分かれば、俺一人でも対応できるようになれるかもしれない。
「わかんない」
「……そうか」
「だけど、予想なら。……他の人よりちゃんと見てるからかも」
「見る……?」
「絵描くから……細かいところまでちゃんと見てる。だから、ちょっとした違和感とかで偽物ってわかるのかも」
「……なるほど。それはあるかもな」
魔人が使っていた『撹乱』というスキルは、おそらく脳を騙す類のもの。
トリックアートをイメージするとわかりやすい。普通に見れば誰もが思わず騙されてしまうが、しっかりと細かく見れば最終的には細かなドットに切り分けられる。あくまでも、現実がねじ曲がったように『感じる』だけ。
これを上手く活かせれば……と思ったが、難しいな。アリスの能力は一朝一夕では身に付かないだけに、同じことはできない。
そんなわけで、アリスの予想が仮に正しいとしてもすぐに活かせそうにはない。だが、ヒントにはなった。
対策を講じるには、何か発想の転換が必要な気がする。
「参考になったよ。サンキューな」
「どういたしまして」
それから三十分後。
「あっ、見えてきました!」
「話に聞いてた通り綺麗な島ね」
「ヤシの木が自生してるんだね。なんか不思議な感じ〜!」
「うぅ……日差しで死にそう……」
約一名引きこもりが苦しんでいる以外では、みんな観光気分を楽しめているようだ。俺も正直アリスの気持ちはわかる。まあ、南の島でキャッキャと騒ぐような歳でもないしな。実年齢は。
リーシェル公国領空を通って行政区までの移動は事前に許可を得ていたが入国には手続きが必要ということで、一旦地上に降りることに。
「スイ、ご苦労だった」
「もったいないお言葉です」
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