第166話:奇妙な噂を教えられたんだが

「カイン、無事だったか!」


「ああ、お陰様でな」


 俺が飲むよう指示した光り輝く生命力ポーションLv.5のおかげで、すっかり怪我は治ってピンピンしている。


「ほんと、あのポーションってヒーラー泣かせだよね」


 ジト目を向けてくるミーシャ。


 そういえば、ミーシャは強化魔法の他に回復魔法も使えたんだったな。ちょっとミーシャには悪いなあ……と思いつつも、生命力ポーションが便利すぎるので仕方ない……。


「俺ではまったく太刀打ちできなかった。もしユーキがこの村に立ち寄ってなかったら……と思うとゾッとするぜ」


「村を大切に思ってるんだな」


「おうよ。なんたって俺が生まれ育った土地だからな。魔物なんかに好き勝手させねえって思って冒険者になったんだ。ま、学もねえし他に仕事がなかったからってのもあるんだがな!」


 ガハハと笑うカイン。


 魔人が暴れた正門付近の建物はボロボロになってしまっているが、村全体としてはほとんど無傷。


 万が一の際には撤退する選択肢も頭の隅では考えていたが、こうしてカインの心から安堵した様子を見ていると、諦めずに戦い抜いて良かった……と思わされる。


「それにしても魔人とは……む」


 地面に倒れている魔人の亡骸にカインが注目した。


「どうした?」


「胸のこの刺青……まさか『ヘルヘイム』の……」


「ヘルヘイム?」


 カインの目線の先を見る。


 服の陰から見える胸……というより鎖骨の下あたりには、不気味な黒い模様が掘られていた。


 三角形の中に目……前世の陰謀論系ネット記事で見たイルミナティのロゴと似ている気がする。


「ヘルヘイムってのは、最近信者が急増してる胡散臭い宗教団体だ」


「そんなのがあったのか」


 まだ異世界に来て日が浅いので調べきれていなかったのか——と思ったが、アレリアたち四人もピンと来ていない様子。オズワルド王国やヴィラーズ帝国にはまだ伝わっていないのかもしれない。


「ユーキたちはどこから来たんだ?」


「オズワルド王国からだ」


「なるほどな。それなら知らないのも無理はねえ。オズワルド王国は大陸の東側にあるだろ? ヘルヘイムは、西側発祥なんだ。んで、最近はリーシェル公国で信者が急増してるって話だ」


 ここでリーシェル公国の名前が出てくるのか。さすがに今回の魔人とは関係ないと思いたいが……。


「明日言おうと思ってたことと繋がるんだが、もうここで話ちまうぞ」


 食堂でリーシェル公国の名前を出したとき、カインは気になっていることを明日教えると言っていた。その件だろう。


「ヘルヘイムには良くない噂があってな。どうも、禁忌魔法の研究を盛んにやってるという噂を耳にしたことがある」


 禁忌魔法……各国が開発、使用を禁止している魔法のことだ。


 オズワルド王国前国王セルベールが使用するよう指示した『異世界から勇者を召喚する魔法』も禁忌魔法の一つである。


 禁忌魔法は、この世の理を超越する特殊な魔法。使えば世界の魔力バランスが崩れ、災害を引き起こす恐れがあるために禁止されているそうだ。


「リーシェル公国って島国だからさ……奴らが色々と隠すにはちょうど良い地形してんじゃねえかってな。ま、何も証拠はないんだが……禁忌魔法なんてやべえもんを使えば、魔人が生まれても不思議じゃねえとは思うぜ」


「なるほどな。……気を付けるよ」


「そうしてくれ。ま、あんだけ強いなら俺が心配するまでもねえだろうがな!」


 またもやガハハと笑うカイン。


 リーシェル公国に訪問する当初の理由は、レグルスの様子を見に行き、不審な行動をしていないかチェックすることだった。


 だが、それ以上にヘルヘイムの件は気になる。放置すれば王国に脅威をもたらす可能性がある。現地に着いたらレグルスとの面会は予定通り行い、残った時間はヘルヘイムと魔人の関係について調べることとしよう。


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hykecomicというアプリで「無職が最強であることを俺だけが知っている」という縦読みの漫画を連載しています。(原作・脚本担当)

最新3話以外は無料で読めるようになっているのでぜひ読んでみてください!

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