第150話:摘発に来たんだが①

 ◇


 俺たちがやってきたのは、ギルドから五分ほどの場所に位置する古びた宿。この宿の一室に客として訪れれば売ってくれるとのこと。


 たまに拠点を移すとのことだが、今はここを根城にしているらしい。


 それにしても、これほど近い場所でやるとはな。不正ギルドカードを売っている組織の連中は、かなり肝が座っているようだ。


 警察署の前で堂々と犯罪行為をするようなもの。……いや、そう考えると意外と理に敵っているのかもしれないな。ま

さかこんなところで堂々と犯罪行為をしているとは思われにくい。


「念の為に強化魔法かけとくね」


「助かる」


 全員にミーシャの強化魔法がかかる。


「作戦を改めておさらいしておこう。……まずはミーシャとアリスでギルドカードの購入者を装って入ってくれ。中に入ったら事実確認を頼む。確認が取れたら俺たちも突入する」


 万が一情報が間違っていた時のために念には念を入れておく。


 ミーシャとアリスにこの役をお願いしたのは、相手を油断させるため。俺とアレリア、アイナは王都ではすっかり顔が知られてしまっている。まだ仲間だと世間的に知られていない二人の方が適役だった。


 二人が頷いたことを確認して、業者が借りている部屋に向かった。


 一階の角部屋。


 ミーシャがコンコンと扉を叩く。


 しばらくすると中から物音がしたかと思えば、ピタッと止まった。


「どうも、お久しぶりです」


 ミーシャが事前に聞いていた合言葉を言うと、カチャと鍵が開く音。キィと音を出して扉が開いた。


「入れ」


 男の声がして、ミーシャとアリスの二人は部屋の中へ入っていく。


 二人が部屋の中に入ると、扉はすぐに閉まってしまう。そして、カチャという鍵が閉まる音が響いた。


 通路の死角に隠れていた俺たちはすぐに突入できるよう、通信結晶に耳を澄ませた。


『ここに来たらギルドカードが手に入るって聞いたんだけど』


 ミーシャの声。


『いかにも。金は持ってきてるな? カード一枚で銀貨一枚だ』


 野太い男の声の返事があった。周りからは少し話し声も聞こえる。中には他に三人ほどいるようだ。


 チャリンという音が聞こえた。ミーシャが銀貨を見せたのだろう。


『お前ら、二枚用意だ。えーそれで、名前は何にする?』


 ギルドカードに刻む文字情報を聞かれているのだろう。この辺でもう容疑は確定したといっていいだろう。

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