第148話:話を聞いてみたんだが③

「何から何まで……ありがとう」


 これはアインのセリフだが、三人はそれぞれしつこいほどに感謝の意を言葉にしていた。


 飛び立つアースを見送ってから、俺たちもスイに乗り込む。


 五人を乗せたスイはさすがに重そうだが、問題なく飛翔。王都への帰路についた。


「ユーキ、ポーションをあげるなんてナイスでした!」


「私もあれがベストだと思うわ」


「お金をあげたり、特別に依頼を達成したことにするとかだと変だもんね」


「さすがはユーキ」


 アレリア、アイナ、ミーシャ、アリスは俺の判断を支持してくれていた。


 あくまでも悪いことをしたという結果は咎め、その上で同情できることには手を差し伸べる。これが俺の考え方だ。


 だが、ポーションを渡したのはそれだけが理由ではない。


「あのポーション以外ではどうにもならないと思ったんだ」


「どういうことですか?」


 キョトンとしたアレリア。意味がわかっていなさそうなのは他の三人も同様だった。


「話を聞く限りだが、アイリスという子の怪我はかなり深刻なんだ。高位の回復術師の治癒だとしても、どうにもならない可能性が高い」


 あの三人も回復は難しいことを知りながらも、一縷の望みにかけていたのだろう。回復術師がパーティにいたのなら、回復術師がどの程度のことならできるかわかっているはずだ。


「アレリアは回復の勇者——シーリって覚えてるよな?」


「ああ……はい。もちろんです」


 一瞬笑顔が崩れるアレリア。


 アレリア自身がキツい言葉をかけられたことで、勇者の中でも一番良く思っていないだろうから仕方ない。


 アレリアの前でできるだけシーリの話はしたくなかったが、この後の説明のために必要なので名前を出した。


「普通の回復術師を超越した存在の回復の勇者でも、スイに襲われたファブリスたちの回復が間に合わなかったんだ。瀕死の状態でポーション漬けになった人間をどうにかできたとは思えない」


 そう説明すると、ミーシャが反応した。


「そうだね。一応私も回復魔法は使えるけど……難しいと思う」


 実際に回復魔法が使える冒険者としての補足はありがたい。



 日本でも医療の現場では最善が尽くされるが、最善を尽くされたからといって必ず助かるわけではない。


 回復術師は神様ではないのだ。意識不明の中衰弱していく生命力を維持する以上の速度で回復させるのは容易ではない。


 それでも大切な仲間のためにできることを全部やりたいという心意気自体は素晴らしい。


「ユーキはそこまで考えていたのですね……!」


 どうにか無事にポーションを飲ませ、回復が間に合いますように——と祈りながらスイに揺られ、王都に帰還したのだった。

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